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My Purpose 自分も周りも楽しんで仕事すること My Purpose 自分も周りも楽しんで仕事すること
Voices 2023.10.19

シンプルだけど奥が深い。
インハウスデザイナーが領域を変えてたどり着いたこと

  • #私のChanges for the Better
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デザインとはただお化粧をするだけではない。プロダクトの機能、仕組み、コスト、製造工程etc.…全てに気を配り、あらゆる課題を解決する道を模索する。そして今やその対象はプロダクトだけではなく、サービスや体験など“コト”にまで及ぶ。三菱電機でまさに“コト”をデザインする藤ヶ谷友輔さんは、どんな足跡をへて、今に至りこれから先を見据えているのか。

デザインのデの字も知らなかった高校生

三菱電機統合デザイン研究所に所属する藤ヶ谷さんは、これまでにグッドデザイン賞を受賞するなど、会社からも期待を受けデザイン能力を発揮してきた。小さな頃からデザイナーを目指していたわけではないが、その素養は確かにあったようだ。

「小さい頃の夢ですか? 正直、なかったですね。デザイナーになろうと思うどころか、デザイナーという存在さえも知らなかったので。でも物心つく前からモノづくりは好きで、例えば砂場で山を作る時もちょっとギミックを入れたりだとか、ひとを驚かせるようなアイデアを加えるような子供だったようです。学生時代は、バレーボール部の活動に力を入れていたんですが、途中でやめることになってしまい、情熱をぶつける先がなくなってしまったので、どうしようかなと。何かやりたいことが見つかった時のためにも先立つものはお金だと思って、高校時代にバイトで100万円貯めました」

大学在学中に紙パックを活用して製作した作品のプレゼンテーションを行う藤ヶ谷さん

高校時代の藤ヶ谷さんは自分がデザイナーになるとは想像もしていなかっただろう。美術系の大学の存在を知ったのも受験の一ヶ月前。美術系の大学といえば、デッサンを学ぶために何年も受験用の予備校に通うのが当たり前であり、一ヶ月前となればすでにアウト…のはずだった。

「デザイン学科があることもその時初めて知ったくらいで。大学の見学に行って在学生たちのデッサンを見たら、こんなにうまいのか、受験まで一ヶ月…。これは追いつけないなと諦めかけたんですが、その場に美術系の予備校に通っている子がいて、出会ったばかりなのにそのままその足で予備校に連れて行ってもらい、残りの期間での受験プランを立ててもらいました。受講料も格段に高かったんですけど、親にも相談せずに、ここぞとばかりに自分の貯めたお金から支払いました。そこから猛勉強して、なんとか合格できたんです」

周りとのギャップを埋めるために

デザインという世界を知ってからわずか一ヶ月で、藤ヶ谷さんはインダストリアルデザイン科への入学を果たす。しかしそこからが挫折の連続だった。

「入ってから苦労しました。周りのみんなは1〜2年かけて勉強して入ったけど、僕は一ヶ月。本来の実力差ははっきりしていて、教授にも描けないやつとして名指しされたくらい。でも、描けるようになるために学びに来ているし、それを教えてくれるんじゃないのかなと。うまい友達が周りにたくさんいたので、なんとか必死に追いつきたいと、自分にも達成できそうな目標として1日3枚スケッチを描くと決めて、ひたすら練習しました」

話を聞いていて感じた藤ヶ谷さんの強みは、自分の欠点をしっかりと認めるしなやかな心と、たどり着くゴールを見定めて、そこまで至る道筋をしっかりと歩む、前向きな性格なのではないだろうか。

「そうですか? バレーボールをやっていたからアスリートみたいな思考はあるのかもしれません。あとは、それまではいわゆる“お勉強”というのは苦手でしたけど(笑)、モノづくりがシンプルに好きなので、学ぶことは苦じゃないし、勉強している感覚もありませんでした。今でも変わらない、モノづくりの楽しさやいいものを作りたいという思いが僕がデザインに向き合う時の原動力かもしれません」

念願の三菱電機へ。そこで味わった大きな挫折

大学卒業を機に、目指したのは家電メーカー。プロダクトデザインを学ぶ大学生にとっては花形企業だ。その中でアイデアを武器に勝負する会社という印象を抱いていた三菱電機からの採用が、見事決まった。ただ、入社すると鼻っ柱をへし折られたどころか、もぎ取られたくらいだと当時を振り返る。

「先ほどの通り大学時代は楽しかったので苦労したとは思ってないのですが、それでも頑張ってきたという自負はありました。それこそ他の学生たちが諦める中でも、自分だけは納得いくまで大量に試作品を作ったりと。でも、この会社の先輩たちを見ていると、それまでの自分は大したことなかったと思ったし、学ぶこと・やるべきことはいくらでもあると思い知らされました」

その後、先輩たちから指導を受けながら成長を続け、三菱電機の看板製品のひとつ「ルームエアコン 霧ヶ峰」チームに配属される。そこで大きな挫折と大切なことを学ぶ。

「霧ヶ峰のチームで、タイのルームエアコンを作るプロジェクトがあり、先輩含めて4人がデザインスケッチを描いてタイの工場でプレゼンしたことがあるんです。プレゼン場所のスペースの関係上、そのスケッチを何枚か外さなきゃいけないと。誰が描いたかわからないはずのタイの人たちが外したのが全部僕の描いたものでした…。それがすごくショックで、ああ自分がいいと思うデザインを作ってしまっていたんだな、タイの人達がいいと思うデザインを作らなきゃいけなかったんだなと気づきました。もちろんデザイナーという人種は、自分がいいと思うものを提案すべきですが、その上で使う人達がいいと思うものを作らないといけない。そのためには、自分の価値観をどんどん広げるしかないけど、その作業がすごく大変でした。今でも難しいです。でも自分はいっぱい失敗してきたから、そこに気づけたと思います

デザインの対象は変われども…

霧ヶ峰のシリーズの中で、藤ヶ谷さんが手がけたモデルはいくつかあるが、あるモデルでは吸気口の位置を変え、それに伴ってルームエアコンの形状を変えることで、さまざまな問題を一気に解決することに成功する。

入社当時は、スキルも価値観の幅も狭くて、自分がいいと思えることが小さな点でした。でも、たくさん機会を与えてもらって、失敗を重ねることで、その幅がどんどん広がってきたと感じています。別メーカーに勤める大学時代の友達が、友輔の作るエアコンが良かったから全機種買ったよ、と言ってくれたのはうれしかったですね。霧ヶ峰のプロジェクト以降、自分がいいと思うものとユーザーがいいと思うものを重ねることが出来てきている実感があります」

今や藤ヶ谷さんも入社して13年という中堅クラスに。現在はプロダクトという“モノ”だけでなく、体験まで含めた“コト”をデザインする部署に籍を置き、より広い視野で課題を捉えながら、そのデザイン領域を拡張している。

「例えば、電車の混雑を解消するためのサービスをデザインしたり、それにまつわるプロダクトをデザインしたりとその対象が広がりました。でも、考える基本的なプロセスは、対象がモノであっても、コトであっても変わらないというのが持論です。課題をどう分解して再構築すれば、その課題を解決できるかを探る作業なので。変化としては、今まではエアコンなどのプロダクト単体でしたが、今はモノを使いながら、世の中を、すこし便利にしたり、すこし安全にしたり、すこし楽しくするというサービス全般を長いスパンで考えるようになりました。自分が良いサービスをデザインすることで、結果的に少しでも社会がよくなったらいいなと思います

マイパーパスは、自分も周りも楽しんで仕事すること

もちろん仕事の大小が仕事の良し悪しに直結するわけではない。しかし、三菱電機ならではのスケールの大きな仕事は、社会や世界に対してインパクトがあり、そのことが藤ヶ谷さんのやりがいの一つになっている。

「デザイナーというのは考えるだけで、ひとりでは実現できません。エンジニア、営業などいろいろな方々の技術を持ち寄って、ようやく理想のサービスや製品を実現することができます。世界中から人材を集め、幅広い分野でそのパワーを持っているのが三菱電機であり、同時にそれを生かすも殺すも自分のアイデアにかかっている…かもしれない。そんなモチベーションを持つことができる会社だなと

藤ヶ谷さんの将来性や社内の期待を考えれば、これからますます仕事のスケールは大きくなっていくだろう。しかし仕事のスケールが大きくなればなるほど、藤ヶ谷さんの意識が向くのは個人という小さな存在だ。

「公共性が高くなると、割と数字を見てしまいがちなんです。何パーセントの20代の男性がこうしているのでこうしましょうと。確かにデータも重要ですが、実際には多様な人がいて、その人たちが実際にどう思うかというところを個人的には大事にしています。最近やればやるほど、ロジカルに正論としてまとめるんじゃなくて、もっと一人ひとりに寄り添った、感情的な考え方ができるかどうかに注力しているんです。でもこれって、三菱電機統合デザイン研究所のフィロソフィーである”デザインの行先は、人”ということだなと。10年くらいしてようやく気づきました(笑)。そして三菱電機が持っている技術力や開発力があるからこそ、自分のデザインの力やアイデアが活かせるというモチベーションがあります。これは社会との接点、世界との接点が多く作れるという認識に繋がっていると思っています

最後に、これからどんなことを三菱電機で実現していきたいか、いわば“マイパーパス”は何かを尋ねてみた。その答えは、これからの三菱電機をリードするデザイナーとしての自覚と誇りを感じさせるものだった。

“自分も周りも楽しむこと”ですね。シンプルで簡単に聞こえるけど、色々な経験を経た今感じるのは様々な意味があり深い言葉だと捉えています。突き詰めると、楽しくワクワクする世界を作りたいという思いがあります。それに楽しく仕事しないと、いいものはできないと思います。もちろんそれは自分もそうだし、開発に関わる周りの人もそう。ポジハラじゃないけど(笑)やっぱり自分に近い人たちくらいは、笑って楽しく仕事をしてほしい。そしてユーザーにも楽しんでもらえるものを提供する。言葉としてはすごいシンプルですけど、僕にとってのマイパーパスは、何周もして今はそう思っています」

藤ヶ谷 友輔

INTERVIEWEE

三菱電機統合デザイン研究所藤ヶ谷 友輔

大学卒業後、2011年入社。日本国内の霧ヶ峰シリーズをはじめ、タイや中国など海外ルームエアコンのデザインも手がける。現在は、プロダクトだけでなくサービス全般のデザイン業務を担う。グッドデザイン賞などを多数受賞。

掲載されている情報は、2023年8月時点のものです。

制作: Our Stories編集チーム

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