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3RD CERAMICS・陶芸家 長屋 有 土井 武史 ×三菱冷蔵庫 先行開発グループ 鈴木 和貴

#05 TSUKASADORU HITOTACHI

工房訪問篇 陶磁器製造・販売「3RD CERAMICS」

(岐阜県多治見市)
TAJIMI

岐阜県南東部の東濃地方は、陶磁器の1つである「美濃焼(みのやき)」の一大産地です。
ここ多治見市もまた美濃焼工房の集積地として国内外に広く知れ渡り、
最近は美濃焼をテーマにしたコミック・アニメ作品の舞台となった当地に多くの観光客が詰めかけています。

3RD CERAMICSの陶磁器ができるまで

2014年、そんな多治見市で2人の陶芸家がチームを結成。新たな創作活動を始めました。屋号にした「3RD CERAMICS」には、2人の陶磁器業界にかける思いが込められているようです。

その思いを知るべく、まずは3RD CERAMICSの工房を拝見しました。

通常、美濃焼の製造は「土をつくる」ことから始めます。3RD CERAMICSで調達している土は3〜4種類。創作の条件に合わせて土の配合を変えています。

数種類の土でブレンドされた粘土には、まず「荒練り」と呼ばれる作業が施されます。荒練りは粘土を折りたたみながら練り込み、粘土の柔らかさを均一な状態に整える作業です。さらに作陶直前には小分け状態された荒練り済みの粘土を「菊練り」していきます。

「こうしてこぶし大の粘土塊を手で回転させながら、思い切り自分の体重をかけて練り込む。これが菊練りです。こうすることで土のなかに含まれる空気が抜かれる。商品の品質にも関わる重要な工程ですが、結構体力がいるんですよ(笑)」(長屋さん)

陶磁器の要となる成形作業にはさまざまな種類がありますが、3RD CERAMICSでは主に電動ろくろと石膏型が使われています。今回はろくろ成形の作業を見させていただきました。

「ろくろ成形は電動ろくろの回転に合わせながら、自分の手や道具を使ってカタチを整えていく作業です。まずは最終成形の状態をイメージしながら、電動ろくろの軸が中心に来るよう粘土をしっかり据える。そして手で均一にならす。この下準備を陶芸の世界では“土殺し”と呼んでいます」(土井さん)

長屋さんの操作で電動ろくろがくるくると高速回転を始めました。長屋さんがその回転に自らの指を合わせると、徐々に粘土のカタチが整っていきます。陶芸がうまくなるコツを問うと「自分もいまだにわからない」とはにかむ長屋さん。

「毎日ちょっとずつうまくなるというよりは、ある日突然『今日うまくなったかも』と思うような感覚。ろくろを回しているときも頭のなかでは実は別のことを考えていることもあり、創作のアイデアなんかを考えていたりもします」(長屋さん)

成形を終えた粘土を工房内で数日間自然乾燥した後、素焼き・絵付け・施釉(せゆう、釉薬をかける作業)・本焼きが行われます。

「素焼き・本焼きは同じ電気釜を使っていて、その都度温度設定やプログラムを変えています。素焼きがだいたい800℃、本焼きがだいたい1200℃。本焼きの窯から出してきれいに焼けていれば、最後に仕上げを行い、作品として世に出せる状態となります」(土井さん)

カタチとして
まったく同じものはない

「第三の陶芸」活動の根底にあるもの

工房に併設するギャラリーにもお邪魔し、これまでに創作された作品群を紹介していただきました。

そもそも「3RD CERAMICS」という名前には、かねてより個人作家として活動していた長屋さんと、かつては陶磁器メーカーに勤務していた土井さんの「個人作家でもメーカーでもない、第三の陶芸を生み出したい」との思いが込められているそうです。第三の陶芸とは、いったいどういうことなのでしょうか。

多くの陶芸家は自身が頭のなかに秘める創作イメージをカタチにすべく、数日間・数カ月間をかけて重厚な作品を仕上げていきます。対して陶磁器メーカーは1日に何千・何万を量産する生産能力を持ち合わせています。

2人による創作活動はそのどちらでもありませんが「個人作家とメーカーの掛け合わせ」。

第三の陶芸については、いまだそのあり方を模索中とのことですが、自分たちの作りたいものを追求しつつ、なるべく様々な要望に対応していきたい、という思いが伝わってきました。

「例えばこのFLOWER VASE(フラワーベース)はろくろ成形で作った商品です。当然、石膏型での成形より生産効率は落ちますが、その分、作陶過程でわずかな“ゆれ”が生じます。カタチとしてまったく同じものはなく、お客様のお手元に届く商品は基本的に唯一無二。
それでも1日に十数個は作ることができます。
また、最近はメーカーさんに素焼きまでを委託し、その後の工程を僕らが担当するような生産プロセスを踏む商品も始めました。
作りたいものやお客様のニーズに合わせて作り方を変えていけるのも、この美濃焼の産地ならではの長所です」(長屋さん)

最後に長屋さんはこう付け加えました。

「何が個人作家で何がメーカーなのか、その定義はとても難しいと思います。しかしむしろ『そのあいまいさや境界線を捨てる』ということが、3RD CERAMICSの活動の根底にあるかもしれません」(長屋さん)

工房・ギャラリー訪問後、3RD CERAMICSの2人の創作活動にかける思いを三菱電機・鈴木和貴との対談で伺いました。

第五回 対談篇 前篇
個人作家か、メーカーか。
行き着いた自分たちなりのスタイル
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