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バイオーム社でみっけ!
生物多様性の世界

三菱電機が“新規事業創出”をテーマに取り組む、オープンイノベーション※1活動。関西エリアにおいて地域課題や環境課題の解決に取り組むベンチャー企業やスタートアップ※2企業を発掘する中で出会った、京都大学発のベンチャー企業「株式会社バイオーム」の藤木庄五郎社長に話を伺いながら、三菱電機の新しい価値創造に向けた取り組みをご紹介します。

※1 自社だけでなく、他社や大学などが持つ知識や技術を取り込んで、製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などを行うこと

※2 革新的な技術やアイデアで新たな価値を生み出し、急激な成長を遂げる企業

三菱電機が“新規事業創出”をテーマに取り組む、オープンイノベーション※1活動。関西エリアにおいて地域課題や環境課題の解決に取り組むベンチャー企業やスタートアップ※2企業を発掘する中で出会った、京都大学発のベンチャー企業「株式会社バイオーム」の藤木庄五郎社長に話を伺いながら、三菱電機の新しい価値創造に向けた取り組みをご紹介します。

※1 自社だけでなく、他社や大学などが持つ知識や技術を取り込んで、製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などを行うこと

※2 革新的な技術やアイデアで新たな価値を生み出し、急激な成長を遂げる企業

REPORTER

三菱電機株式会社 関西支社 営業企画課兼総合営業第一課坂 純也

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最近は生き物と触れ合う機会も減っていましたが、いきものコレクションアプリと出会って、親戚の子と撮った画像をシェアして新しいコミュニケーションが生まれたり、普段気づかないところに目がいくようになったり、自分の行動が変化しました。そういう経験に、新しい価値創造につながる種があるように感じるので、今回の取材で掘り下げてみたいと思います。

HIGHLIGHT AREA

関西支社

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関西2府4県を主な担当エリアに、重電システム・産業メカトロニクス・情報通信システム・電子デバイス・家庭電器等、ほぼ全分野において関係会社と連携を図りながら、営業活動を展開しています。

関西支社 地域ビジネス活動

掲載されている情報は、2022年9月時点のものです

関西支社では新規事業の創出をテーマに2020年から各種活動を展開。地方創生や環境問題の解決に取り組む有望なスタートアップを発掘し、コラボレーションを通じて新しい価値創造を目指すオープンイノベーション活動を中心に、事業推進部のメンバーに具体的な活動内容や意義、それぞれの想いについて語っていただきました。

事業推進部 営業企画課
田嶋 紗穂

事業推進部 営業企画課
谷本 純也

テーマは、新規事業創出

坂/関西地区における新規事業創出活動は、事業推進部内のプロジェクト活動として取り組んでいます。
「ベンチャーエコシステムプロジェクト」と名付け、お客様に最も近い営業部門の特徴を活かして、課題を拾い上げ、そこからビジネスにつなげることを目的に、大きく4つの活動を展開しています。一つ目は「ネットワーキング活動」で、スタートアップや大企業の新規事業部門の方々と関係性を構築し、イノベーションコミュニティ内でのプレゼンスを高め、新規事業においてチャンスメイクできる環境を作ることが目的です。

2つ目の「ソーシング活動」は、既存事業の強化や新規事業の創出につながる有望なスタートアップを探索し、コラボレーションにつなげる活動で、3つ目の「インキュベーション活動」は、社内の研究所や製作所が保有する技術やアイデアの事業化を支援する、いわば技術起点のビジネス創出を目的としています。4つ目の「マインド醸成」は、人材育成や社内の風土づくりを通じて、イノベーションを生み出す土台づくりを行う活動です。2020年のスタートから、今年で3年目を迎えますが、これまではオープンイノベーション活動の要であるソーシング活動に力を入れており、関西圏を中心にしつつも、グローバルを対象に有望なスタートアップを探索し、関連する事業本部やビジネスユニットとつなぐ活動を行っています。

マッチングの難しさを、実感

田嶋/昨年、取り組んだ「アクセラレーションプログラム※3」は、“スマートシティ”をテーマに三菱電機とコラボレーションしたいスタートアップを募集し、最終的に4社とPoC(実証実験)を実施しました。スタートアップの方々と密に関わる機会は今回が初めてでしたが、社内と社外、両方のニーズをマッチングしていくことの難しさを実感しました。

坂/屋外の空気の質を計測し、分析できるセンサーを開発したドイツのスタートアップが印象的でした。「うめきた2期地区開発プロジェクト※4」の開発エリア近くにドイツから取り寄せたセンサーを設置し、エリア一帯の空気質をモニタリングし、データを一緒に検証しました。都市整備が進むヨーロッパでは、街の空気が悪くなると、赤信号を長くして、クルマの利用に負荷をかけたり、公共交通機関の値段を下げたり、行政がクルマを街に入れないための施策を講じているそうで、こうしたヨーロッパの先進的な取り組みが日本にもいずれ来るということで、スタートアップと都市開発における新しい価値提供に向けた取り組みを模索しています。

田嶋/社内で日々事業開発に取り組む人たちの中には、外部の情報を知りたがっている人もいます。そこを私たちが担い、ネットワーキングやソーシング活動で得た情報をもとに、内部とつなぐのが役割です。組織が大きく、部門が多様なので、どこの誰につなげばいいのか、社内ネットワークの引き出しも持っておかないと、マッチング精度に関わります。そこは、難しさの一つでもありますね。

坂/基本的には、社外の人と関係性を構築し、それをビジネスにどう結びつけていくか、です。でも、外から情報を仕入れても、社内の部署や人材に的確にボールを投げなければならないので、外と内の両方の情報を持つことが求められます。

※3 大企業とスタートアップ企業が両社の強みを活かした事業共創を目指すプログラムのこと

※4 大阪駅前の貨物ヤード跡地にて進められているオフィス、ホテル、商業施設、都市公園などの大規模複合開発

人と人をつなぐ、目利きとして

谷本/事業推進部に来る前までは、昇降機やビル内の設備品の営業というまったく異なる分野でしたが、人対人というところは共通しています。社内でも社外でも、ビジネスは人と人の関わりで進めていくもの。相手とどう向き合うか、そこを大切にしています。

田嶋/私は以前、社内と関連会社の連携を促進する施策や社内の年度計画の取りまとめをしていたので、その人脈が今、生きています。ただ、仕事の向き合い方がまったく違って、これまでは先を見据え、計画を立てて進めることが求められましたが、今は、ある程度、動いてからではないと、先も結果も見えません。考えていても、うまくいくわけではないし、失敗を恐れず、いかに動くかが求められます。

谷本/この人とこの人を引き合わせると、何か起きそうだという嗅覚も必要ですね。

坂/“目利き”という言い方をしていますが、そこはどう鍛えればいいのだろう?とにかく人と会って、わからないなりにも会話をして、そこから得た知識が、もしかするとどこかで活きるかもしれない、そういう感覚を持つことが大切なのかもしれませんね。

熱量と想い、それに応える個の力

谷本/以前は、お客様の要求に応じて動く、先の見える仕事が多かったのですが、今は、手探りの難しさを感じます。でも、強い想いを持って、本気で日本を変えたい、世界を変えたいと思っている人たちとの出会いは楽しいし、一緒に世の中を変えることができたらいいなと思います。

坂/今日、これからお会いする株式会社バイオームの藤木社長も、イベントに参加した際に拝聴したピッチ※5がすごく面白かったのがきっかけです。三菱電機がスマートシティ実現に向けて、特に地域活性化や地方創生に貢献するソリューション開発に取り組んでいる中で、人の行動を誘発するキラーコンテンツの探索を行っていました。バイオーム社の「いきものコレクションアプリ」は、外に出て、虫を撮って、自分のクエストにしていくアプリ。人を動かすきっかけになるし、ビッグデータとしての可能性も魅力的。生物多様性をダイレクトに肯定するスタートアップとしてもユニークです。社内で「面白い会社があるのですが」と、いろいろ人に話すうちに、当社事業開発テーマの1つであるデジタル地域通貨のメンバーにたどり着き、紹介したのが始まりで、それが当社CSR活動の「家族で楽しむ野外教室“生きものみっけ”」の活動にもつながりました。外から得た情報をどんどん発信して、周りの反応を探ることも重要だと思います。

谷本/起業された方は熱量が違って、想いが強い。そういう人たちと対等に話をするには、我々個人の力が試されている気がします。

坂/三菱電機の名刺を持って行くけれども、先方からすれば、僕個人がいかに社内の情報を持っていて、アイディエーションできるのか、そこが問われます。その意味では、より個人の力量や努力が求められると感じます。

田嶋/三菱電機が持っているリソース、技術や製品というものを、うまく引き出していかなければならないし、本当に社内を巻き込める人間なのか、そこはすごく見られている感じがします。

※5 スタートアップが投資家などに対して、自社のアイデアや技術、サービスを短時間でプレゼンテーションすること

事業化への道のり

谷本/今後は、当社研究所や製作所の技術をビジネス化する取り組みに注力したいと考えていますが、その活動でもスタートアップから学ぶべきことが多くあると考えています。技術があるとはいえ、一から事業開発に取り組むわけですから、いわば自分たちがスタートアップになるような活動です。

田嶋/組織が大きいと社内の確認事項が多く、時間がかかります。でも、ベンチャー側はすぐにでも解答を求めている。そのスピード感の違いや、とりあえずお客さんの声を聞きに行く!といった行動力は取り入れていきたいと思っています。

坂/具体的なKPI(指標)を立てづらいプロジェクトですが、自分たちの知り得た情報を関連する部署や人に投げて、マッチングするのが重要なミッションなので、その精度、確度を上げていくことが大事です。社内技術の事業化も、お客様の課題を正しく理解することや仮説検証を繰り返す視点が重要で、そこを踏まえて技術開発、製品化する必要がある。技術だけを尖らせても、ニーズとかけ離れていては本末転倒で、そこは外の世界を知る僕らがアイデア段階から研究所や製作所のメンバーと組むことで、お客様を巻き込みつつ、一緒に創り上げていければと考えています。

種蒔く人として

田嶋/関西には大阪、神戸、京都と数多くの大学があって、そこで培った技術をビシネス化する動きが活発です。そうしたスタートアップと知り合えるのは、関西の魅力だと思いますし、地場で活躍するスタートアップと関わり、盛り上げていけるのは、地域に根ざしたメンバーだからこそ、できる仕事です。

谷本/とにかく続けることが大事。三菱電機として関西圏でこうした活動をしているのは我々だけですから、ここが止まると、オープンイノベーション活動自体が止まってしまいます。

坂/いかにチャンスメイクできるかがポイントなので、その数を増やしていく。種蒔きというか、苗を植えていく感じでしょうか。

田嶋/種蒔く人として生きていく(笑)。芽が出たら、それを育てて。

坂/成果に結びつけるのが目的ですが、それが何年後に、どれくらい実るのかと問われると、なかなか難しい。でも、三菱電機の新しい事業創出に貢献できればいいし、何より、スタートアップの人たちと想いを同じくし、世の中を変えていくことにつながれば、そこがいちばんのゴールイメージかもしれません。

田嶋/こういう活動をしているからこそ、起業した人たちと同じ想いで向き合うことが大切ですし、同じ志を持って挑んでいきたいと思います。

―ありがとうございました。

「家族で楽しむ野外教室"生きものみっけ"」の活動とは?

三菱電機グループは、自然との共生を通じた社会貢献活動に取組んでいます。21年度から(株)バイオーム、幼稚園・保育園、環境団体などと連携し家族で楽しむイベント「生きものみっけ」を実施しています。
出会った生きものを知る楽しさで、家族の会話がはずみます。さらに、集められた情報が生きもの分布の研究に活かされるため、社会にも貢献しうる活動と位置付けています。

京都大学発のベンチャー企業として、いきものコレクションアプリ「バイオーム」を手掛け、世界のあらゆるいきもの情報を定量化・数値化し、経済的アプローチによる生物多様性の保全を目指す株式会社バイオームの藤木庄五郎社長に発想の起点やアプリ開発の経緯などについて伺いました。

株式会社バイオーム
代表取締役 藤木庄五郎さん

起業に至る、はじまりの物語

坂/御社には、三菱電機の社会貢献活動の一つ、家族で楽しむ野外教室「生きものみっけ」でご協力いただきました。もともと、私が藤木社長のピッチを拝聴し、お互いのビジネスを掛け合わせて、新しいコラボレーションができないか、お話させていただいたのが始まりです。本日は、改めて起業された背景などについて伺えればと思います。

藤木/実は小学生くらいから生態系や生態学に興味がありました。夏休みは毎日、近くの川や池で鮒釣りをしている子供でしたが、まったく鮒が釣れない場所があって、代わりにブルーギルが釣れる。北アメリカ大陸原産の淡水魚で、当時のバス釣りブームで、ブラックバスと一緒に放流された外来魚です。これはどういうことだと思い、図書館で調べて、外来魚の問題や生態系という概念を知り、自然は複雑で繊細なバランスで成り立っていて、守らなければならないと強く思うようになりました。要は、鮒がいなくなり、外来魚ばかりになるのが怖かった。それを防げないかと考えるようになったことが原体験としてあります。

原生林の最奥部で見たもの

藤木/そこから環境のことを学ぶなら、京都大学がいいと聞き、勉強しました。生態学の研究室に入り、生物多様性の定量化技術の開発というテーマをつくって研究していました。その時に、ボルネオ島のジャングルをフィールド調査し、そのデータを使って技術開発していましたが、ボルネオ島は、原生林が残る素晴らしい自然に囲まれた生物多様性のホットスポットといわれる場所です。でも一方で、すごい勢いで開発が進む環境破壊の最前線でもある。その現場で野宿しながら、2年半程、調査していたのですが、環境破壊の現場は凄惨で、地平線が見渡せるくらい、木が一本も生えていない場所がたくさんある。現地の樹木は樹高60mくらいあるので、幹はすごく太い。これを切って運び出し、地平線が見えるまで切り尽くすエネルギーに圧倒されました。結局、経済で、お金が儲かるというエネルギーが、ここまで土地を改変し、環境を壊してしまう、それを強く実感しました。環境を壊せば儲かるという原則が、今の社会にはあって、ならば、環境保全を考える時に、経済抜きで考えられないし、そこを無視することの不毛さも考えました。研究というアプローチではなく、経済的アプローチで、環境を保全すると儲かると思える仕組みを作らないと、環境破壊は止められないと考えるようになりました。研究者ではなく、ちゃんとお金を儲けられる組織をつくらなければと考え、そのモデルケースとして“起業”という選択肢が自分の中に生まれました。博士号を取るところまでやり切り、そのタイミングで会社を立ち上げました。

数値化できなかった、生物多様性

坂/そんなバックストーリーがあったわけですか。アプリの開発に着目された経緯というのは?

藤木/まず基本的に、生物多様性は目に見えません。それは数字として見えない、つまり数字で評価しにくい領域という意味です。気候変動は、炭素何トンを削減、ゼロカーボンをめざす、炭素排出権の売買というように経済の力を利用して、気候変動の解決を目指す動きになっています。しかし、生物多様性は、数字で表すことができないため、ルールも作れない、ゆえに目標も決められません。活動しても成果が見えない、反省もできない、手探りで定性的なことをするしかない領域です。だからこそ、生物多様性を可視化し、数値化することが大事だということで研究していたのですが、結局、その数値化が難しい。理由は現場のデータが不足しているからです。衛星画像など、いろいろ観測機はありますが、現場でどの程度、生物が生息していたかという元データがないと、何も言えない。それゆえ、ボルネオ島で野宿しながら、現場のデータをかき集めていたわけですが、やはり、そこに限界を感じました。仕組み化するには、うまくデータを集める構造を作らないと、生物多様性の数値化はできないと感じ、効率良くデータを集める方法をずっと考えていました。

ジャングルの奥にも、スマホが…

藤木/これもボルネオでの話になりますが、ジャングルの最奥部みたいなところにも村があって原住民の人たちが住んでいます。彼らの生活にテレビ、冷蔵庫、洗濯機はありません。なのに、スマホだけは持っている。しかも、スマホを使うために、わざわざ発電機を買ってきて、並んで充電している。衛星アンテナを立て、Wi-Fiを引っ張ってきていて、何をしているかというと、Facebook。友だちになろうとか言ってくる(笑)。これは不思議な構造だと思って、まず、ジャングルの奥地でも唯一使える観測媒体としてスマホがあると気づきました。世界中、どこにでもスマホがあるという気づき。SNS風の設えにすれば、万人にささるという気づき。要は、スマホが生物の観測拠点になるとぼんやりと考えました。位置情報が取れて、高解像の写真が撮れて、移動可能。しかも、みんなが持っていて、最高の条件が揃っている。ならば、ここからデータを集める仕組みを作らない手はないと考えました。SNSでコミュニティを作り、楽しむ要素を入れて、スマホから自然とデータが集まるものをサービスとして作るのが、筋としていいと考え、生き物をコレクションして楽しむところに辿り着きました。

現場で培った、開発哲学

藤木/何か大きなきっかけがあったわけではありませんが、体験に基づいて、ゲーム的に生き物をコレクションしていく開発哲学みたいなところは、ずっと意識していました。実際に現地の人と生活を共にしていたので、彼らが使ってくれないと意味がない。彼らは、“環境を守るアプリです”といっても、絶対に使わない。でも、楽しいことはやる。道徳観や倫理観に根ざすのではなく、もっと “楽しい”“面白い”といった、人が生まれながらに持つ性質に根ざしたアプリをつくらないといけない。その開発哲学には、現場での経験や考えが生きたと思います。

坂/実際の開発に際して、苦労されたのは、どのようなことだったのでしょう?

藤木/僕ともう一人で開発を始めましたが、プログラミングの経験がなく、ゼロから始めたので苦労しかありませんでした(笑)。加えて、生き物を扱うにはデータベースも整えていかなければならない。そのため、既存の調査結果を集約、整理し、データベースを揃え、さらに名前判定AIのためのデータ整備、ディープラーニングなども覚えなければなりませんでした。一から勉強してAIを作り、人も少ない、お金もない、ただ無限にある時間だけ費やして、寝る間を惜しんで開発し、3年くらいかかりました。
図鑑は当初、リンクを貼って使えるリソースを表示していましたが、少しずつ当社で打ち込みながらオリジナルに差し替え、今、10万種まで対応しています。次の世界展開となると、175万種くらいになるので、かなりきついなと思っているところです(笑)。

生き物って面白い、という価値観

藤木/このアプリには2つ狙いがあって、一つはデータ収集、もう一つは、生き物が豊か=自分の人生にプラス、と思ってもらう価値変容です。生き物と出会い、知ることは楽しいし、発見と感動がある。でも、多くの人は、“ヤダー、虫!”といって、騒いでしまうわけです(笑)。でも、家の中に蛾が入ってきたら、“おっ!ラッキー”と思える価値観こそが、生き物を守る社会には必要で、そういう価値観に変わっていく、行動を変えていくきっかけになるアプリを目指したいと思っています。データは集まってきている一方、行動変容についても、思いどおりの反応が返ってきています。アプリを使うようになって、家で虫を見つけた時、今までは“早く、殺虫剤!”だったのが、写真に撮るという行為が生まれています。今まで何も考えずに歩いていた道が、アプリを使い始めたら、雑草や虫を探すようになり、日々のウォーキングが生き物を探しながら歩く行動に変わったという話もあります。そういう新しい気づき、世界の解像度が上がることが起きていて、ただの風景が、植物として見るようになり、さらに「ヒメジョオン」だと認識するような解像度の違う世界が広がり始めています。それこそが人生を豊かにするもので、死ぬまで世界が面白く見える、というのは素敵な体験です。そういう価値観や行動を変える役割こそが、このアプリには求められており、体験・行動・価値観が変わるような、万人になくてはならないアプリに育てていきたいと考えています。

生物多様性で、世界標準へ

坂/今後の活動については、どのようにお考えですか?

藤木/まずは海外展開。世界中の生物状況を観測するプラットフォームを作り、国際的なルールに関わっていけるようにしていく。ルールもない、目標もない状態を変え、目標を決めて行動し、それが評価できるような場を提供することで、企業が環境保全への取り組みを世界規模で実現できるようにしていきたい。他にプレーヤーがいないので、世界の動きに刺さるようなものを目指しています。30年後、50年後に、今の地球が維持できているのは、バイオームのおかげだったと思ってもらえる、そんな場を作っていきたいですね。

坂/三菱電機に期待することは、ありますか?

藤木/2大環境問題は、気候変動と生物多様性といわれていますが、気候変動については、欧米主導でルールが作られ、政府も企業もそれに従って動いています。でも、生物多様性については、まだルールが漠としていて、だからこそ、今取り組みを始めれば、ルールづくりのイニシアチブをとれる立場になり得ます。今が、その重要な時期で、せっかくのチャンスだからこそ、世界でルールができる前に、デファクトスタンダード(事実上の標準)をつくり、企業が模範的な事例をつくることで、直接的間接的にルールづくりに入れるはずです。その意味では、まず大企業が動くことが大事で、そこに力を入れてほしい。なので、三菱電機さんと一緒にルールづくりをし、世界の土俵で闘えるような取り組みができればと思います。

坂/今日は、素晴らしいヒントをいただきました。ありがとうございます。

株式会社バイオーム

2017年、京都大学初のベンチャー企業として創業。地球上のあらゆる生き物情報をビッグデータ化し、環境保全のためのビジネスインフラをつくり、保全効果を可視化することで、世界的な社会課題の解決に取り組む。

主な事業内容/生物情報アプリの開発・運営、生物情報可視化システムの提供、環境コンサルティング

いきものコレクションアプリで、鴨川探索へ!

“いきもの”コレクションアプリ「バイオーム」とは

出会った“いきもの”ー動植物、昆虫などの写真をアップすることで、その画像や撮影場所、季節などの情報をAIが解析、日本国内に生息する約10万種の収録データから、その名前を判別し、コレクションできるアプリ。ユーザーから寄せられた"いきもの"情報は環境省の生物分布データベースに反映され、生息域の北上、開花時期の早まりなど生物分布の研究に活用される。

対談後、一緒にいきもの探索に出かけました。この日、藤木社長が選んだおすすめスポットは、鴨川の流れが高野川と賀茂川に二手に分かれる「鴨川デルタ」付近。叡山電車の「出町柳駅」近くの河合橋横の階段から高野川の河川敷に降りると、捕虫網を片手に颯爽と歩き出す、藤木社長。手慣れた感じで捕虫網を巧みに操り、蝶やトンボを捕まえ、周囲の草むらで小さなカメムシや蜂、植物を見つけると、写真を撮ってアプリに収め、図鑑で生態をチェック。目を輝かせて、とても満足そう。

さらに、陽光煌めく高野川の流れをじっと見つめながらうずくまり、小さな魚や水生生物を探しています。遠くではカモがゆったり流れに身を任せ、アオサギが何かを啄み、この辺りは気持ち良い自然が広がる、まさにいきものたちの天国。

太陽を浴びて満面の笑みでいきもの探しに興じる藤木社長の姿は、そのまま少年の頃に戻ったようで、いきものコレクションアプリが、万人を魅了する理由が実感できました。

[この日出会った、鴨川のいきもの図鑑]
ハグロトンボ/カメムシ/ヒメジョオン/キンシバイ/アブラゼミの抜け殻 等々

藤木社長の起業背景と、そこに込めた想いを伺い、鴨川沿いで一緒にいきもの探索をしたことで、その人柄の一端に触れられたのは、有意義で楽しいひと時でした。単純な想いやきれいごとで生物多様性を守るのではなく、経済性を担保しながら持続することの意義を改めて感じました。今後、三菱電機として、SDGsへの貢献、そしてまちづくりと生物多様性が共存していく未来を作るためにも、藤木社長のような思いを持った方々と我々も一緒に取り組んでいかなければなりません。社内外の方を巻き込みながら新しい事業を創っていく立場として、あれほどの熱量を持った方の話を伺うと、自分自身もさらに思考を巡らせ行動を起こしていかなければと素直に思いました。個対個として、あの熱量にどう応えていくか。自分も負けない熱量を持って、新しい価値創造に取り組んでいきたいと思います。