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都会のビルの谷間を走る。冬枯れの木立ちの並ぶ、いかにも都会らしく整然とした公園の脇にクルマを停める。この時期にしては暖かさを含んだ陽光が車内を照らしている。ドライバーズ・シートを少し倒してオーディオのCDトレイに宇多田ヒカルの8年ぶり、6枚目のアルバム『Fantome』を入れる。

Fantome/宇多田ヒカル

宇多田ヒカル

Fantome

『Fantome/宇多田ヒカル』

巷には“花の××”という表現がある。音楽シーンで言うなら1998年は“花の’98年組”と呼びたい女性ヴォーカリストが大挙デビューした年だった。椎名林檎、浜崎あゆみ、MISIA、aiko、そして宇多田ヒカルもこの’98年組だ。21世紀を前にしてJ-POPが根付いた年でもあった。そんな“花の’98年組”の中でも、もっともアルバム発表枚数が少なく、活動休止期間が長いのにカリスマ的存在と言えるのが、宇多田ヒカルだろう。彼女のアルバムはいつも、その時の音楽シーンの事情に流されることなく、宇多田サウンドと呼べる成長を見せながらも、デビュー時から一貫したサウンド・ポリシーが貫かれている。

この最新作も、すっと入りやすいのに、宇多田ヒカルならではのサウンドに仕上がっている。活動18年でわずか6枚のオリジナル・アルバムというのも、ファンを飽きさせないのに丁度良いインターバルなのだろう。プロデュースは本人が中心で、録音は名門メトロポリス・スタジオ。バックには多数の海外ミュージシャンの名が並ぶ。ミックス・ダウン・エンジニアはサム・スミスなどを手掛けるスティーブン・フィッツモーリス、マスタリング・エンジニアにはこれも敏腕トム・コインを起用。これが良質なJ-POPの見本ですというサウンド、音楽性に仕上がっている。彼女のアルバムに共通する声質が持つある種の寂しさは、都会の憂鬱ともいいたい。亡くした人への気持ち、隠された本当の気持ち等、言いたくても言えない空に漂う気持ちがアルバム全体に散りばめられ、都会のドライブ・ソングとして孤独なドライバーの気持ちにそっと寄り添ってくれる。

ブラックの缶コーヒー、都会の陽だまり、宇多田ヒカル。アーバンってこんな気分だろう。

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