『海よりもまだ深く』
試写会に行ってきたのは…
編集部員 Y(男性)
もうすぐ梅雨ですね。雨の日も増えて、ジメジメします。
そんなときはアクション映画を観て気分だけでもスカッとしたいです。
編集部員 H(男性)
なんとなく映画が観たいな、と思い立った時に、皆さんはどのように作品を選びますか?自分は、面白かった映画の印象に残った役者さん繋がりで作品を探すことが多いです。
H今回の試写会レポートは、5月21日(土)より公開中の是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』です。
Y是枝監督といえば、『誰も知らない』、『そして父になる』などで世界的にも高い評価を受けていますね。昨年公開した『海街diary』も話題になりました。
H『海街diary』は僕も観ました。海辺の街の古民家で暮らす四姉妹の物語でしたね。日常の何気ない場面を丁寧に紡ぎながら物語を描き出す是枝監督の最新作ということで今回とても楽しみにしていました。
笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多(阿部寛)。15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、今は探偵事務所に勤めているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。元妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ、息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子(樹木希林)だ。ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、台風のため翌朝まで帰れなくなる。こうして、偶然取り戻した、一夜かぎりの家族の時間が始まるが―。
Hさて、どうでしたか?
Yやっぱり是枝監督は日常を切り取ったような表現が上手ですよね。どこにでもあるような家族のやり取りが描かれていて、観ていてホッとします。
H良多と母親の淑子の掛け合いは絶妙ですよね(笑)
Y阿部寛さんと樹木希林さんの2人だからこそ生まれる雰囲気があります。この2人は、是枝監督の『歩いても 歩いても』でも親子役でした。阿部寛さんの役名も、同じ“良多”。
Hいくつになっても親を頼るダメ息子といくつになっても息子がかわいい母親というのは、どこの家族も変わらないですね。
Y母親ってそうなんですよ。自分も未だに実家に帰ると世話焼かれて面倒くさいなと思いながら甘えています。あ、そういえば自分も良多と同世代ですね(笑)。
H この作品の脚本は是枝監督自身のものですが、脚本の冒頭に、「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」と書いたそうです。
Yこの作品のモチーフということですね。
H 確かに、良多は「なりたかった大人になれなかった」主人公として描かれています。15年前に文学賞をとったものの、その後はパッとせず、家庭も失い、「こんなはずじゃなかった」という想いがことあるごとに伝わってきます。
Yなかなか現実を直視できないんだよね。見栄を張って、つまらない嘘をついて・・・まあ、まわりには全部バレてるんだけど(笑)
H なんだか、妙に憎めないところもあるんですが(笑)
Yでも、「こんなはずじゃなかった」という想いを抱いているのは良多だけではなくて、元妻の響子、母親の淑子も同じで、結局、大人になると、誰もが少なからず、自分が描いていた未来とはちょっと違う、と感じてしまうものなのかな。
H良多が、元妻や母親と違うのは、まだ現実を受け止めきれていないところですよね。前を向いて、一歩を踏み出せていないんです。
Yそんな「元」家族に起こる、台風の夜の出来事。是枝監督だから、ショッキングな事件が起こったりはしないんだけど、とても情感豊かに、家族それぞれの想いや葛藤、そして決意が丁寧に描かれます。
H 是枝監督が、本作の着想時に最初に浮かんだのが、「台風の日の翌朝、芝生が綺麗になった団地を歩く風景」だったそうです。
Yなるほど。映画館から出る時に、台風が過ぎ去った朝の美しさのような、すっきりとした眩しいような気持ちになれる作品だと思いますね。
H まさにその通りですね。是非映画館で観てほしい作品です。
次回もお楽しみに!