ごく普通の映画好き編集部員による試写会レポート

第50回
『友罪』

試写会に行ってきたのは…

編集部員M(女性)

近頃、子供を狙った犯罪をよくニュースで目にすることが多く、そのたびに心を痛めつつも、どこかそんな事件に慣れてしまっている自分に嫌悪感のようなものを感じてしまいます。

編集部員O(女性)

子供の頃は、活動的で草むらを走りまわったり、近くの川で釣りをして過ごしました。当然、仲の良い友達も男の子ばかり。転んだりすることも多く、いつもどこかに絆創膏を貼っているような子でした。

M今回の試写会レポートは、5月25日(金)より公開予定の『友罪』です。

O原作はミステリー界の若手旗手として注目の作家、薬丸岳が、2013年に発表した同名ベストセラー小説。「神戸児童連続殺傷事件」を彷彿させ、話題を呼んだ作品の映画化です。

M世間を震撼させた事件の主犯者・少年Aの“その後”を重厚な人間ドラマで描きます。そして監督は『64-ロクヨンー前編/後編』や『8年越しの花嫁 奇跡の実話』などの作品でも有名な瀬々敬久さん。早速あらすじをご紹介しましょう。

あらすじ

ジャーナリストの夢に破れた益田(生田斗真)は、寮のある町工場で見習いとして働き始める。同じ日に鈴木(瑛太)という男も入ったが、彼は自分のことは一切語らず、他人との交流を拒んでいた。しかし、同い年の2人は次第に打ち解け、心を通わせていく。ある日、益田は作業中に機械で指を切断する大けがを負ってしまう。入院中、益田の元に訪れたのは、元恋人で雑誌記者の清美(山本美月)だった。清美は、埼玉で起きた児童殺人事件が、17年前の連続殺傷事件の犯人・青柳健太郎の再犯ではないかと探っていた。そんな中、あるきっかけで益田は鈴木が17年前の連続児童殺傷事件の犯人ではないかと疑い始める―。

(C)薬丸 岳/集英社 (C)2018映画「友罪」製作委員会

M重たい映画でしたね…。何から話せばいいのか迷います。早速ですが、Oさんいかがでしたか。

O重たかったですね…。映画を観る前は、「心を許した友は、あの少年Aだった。」という衝撃的なコピーと青年2人がかすかな笑みをたたえながら自撮りをするポスターから、主に“友情と裏切り”の物語なのかと思っていました。

M友情と裏切りだけではとても語りつくせない内容でしたね。罪と罰、善と悪、生と死、愛、など多くの問題が重くのしかかり、少し辛くなってしまいました。

Oそれとは対照的に、オープニングの背の高い草むらが「ザー」っと音を立て風になびくシーンでは、子供のころに見た空、風の感触や光、無心で遊んでいた情景などが瞬間的に蘇り、とても印象的でした。

M私たちが子供のころは、近くにそういった風景が少なからずまだ残っていましたよね。

Oきっとこの映画の全ての登場人物にも、そのような場所で過ごした子供時代があったのだと想像ができます。

M今回、主演は生田斗真さんと瑛太さんのW主演でしたが、個人的に瑛太さんの演技にとても圧倒され静かな恐怖を感じました。

O瑛太さん演じる鈴木の、人とコミュニケーションをとることが苦手で、感情の表出がスムーズにできない様子が、話し方や仕草からもよく伝わってきました。瑛太さんは頭で考えてというより、感じたまま表現しているように見え、彼の持つミステリアスで人を引き付ける雰囲気が役柄とも合致しているように感じました。

M本当に、そう思います。他にも日本映画界屈指の俳優陣が出演していましたが、富田靖子さん演じる、白石という人物もかなり重要人物として描かれていたように思います。鈴木の過去を知る法務教官兼技官という役柄でしたが、彼女の存在と愛情があってこそ、鈴木の精神が保たれている部分も大きいのではないかと感じました。

Oそうですね。この映画の登場人物たちは、自分の犯した罪や罪悪感から過去に逃げ込んでいて、この広い世界で楽に生きられる場所がどこにも無いように見えました。観ているこちらまで苦しくなってしまいましたね。

Mはい。どう生きれば償うことが出来るのか、観終わった今も答えが出ません。そんな中でも、鈴木が少し笑顔を見せたりする、穏やかなシーンもありましたよね。

O鈴木が子猫を見ながら眠ってしまうシーンは印象に残っています。加害者が犯罪を犯していなければ「ありえた姿」、そして被害者が送ることができたはずの「日常の姿」を感じました。

Mほんのちょっとしたシーンでも、監督の思い、願いが含まれているような気がしました。

Oそうですね。この作品は安易な共感を拒むかのように、センセーショナルな描写を避け、簡単に観る者を答えの出ない問いへ誘う映画だと思いました。

M私たちもいつ犯罪に巻き込まれたり、加害者、被害者の立場になるかわかりません。そしてそういった人たちの家族、恋人、親戚、友人がどういった思いを抱え生きているかを知ることは容易ではありません。けれど、想像すること、向き合う事が重要なのかなと。

O非常に重い映画でしたが、ラストはうっすらとした光、願いのようなものが見えたように思います。監督の覚悟、祈り、そういった深い思いが答えのない問いとして投げかけられ、観終わった後に深い余韻が続くことは間違いありません。

M余韻とともに、流れてくる音楽も観る者の心を落ち着かせてくれたように感じました。

O 音楽担当は半野喜弘さんで、実はわたし半野さんの音楽が大好きなんです。半野さんはエレクトロから映画音楽、また映画製作まで幅広い活動をされています。今作品では音楽が過剰な主張をすることはなく、作品に静かによりそうような形の音楽でしたよね。

Mパリと東京を拠点に活動されている方なんですね。なるほどフランス通のOさんが好きなのも納得です。

O皆様も答えの出ない問いにじっくり向き合ってみてはいかがでしょうか。是非、劇場でご覧になってください。

次回もお楽しみに!

2018.05.25

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