ごく普通の映画好き編集部員による試写会レポート

第58回
『喜望峰の風に乗せて』

試写会に行ってきたのは…

編集部員M(女性)

海は大好きですが、昔フェリーに乗った時に夜の海を見ようとデッキに出ると、あまりも広く真っ暗な海に恐怖を感じたのを覚えています。
それでも、いつかは海の近くに住んで、ゆったりとした週末を家族や友人と過ごしたいという憧れがあります。

編集部員O(女性)

全く泳げないくせに、海への憧れは人並みにあり、SUPやカヤック、ファンダイビングにチャレンジしたことがあります。堂々と救命胴衣や酸素ボンベを着用できるマリンスポーツなら金槌でも参加できるので。だからといって浮き輪は恥ずかしいので、プールは無理です。

O今回の試写会レポートは、2019年1月11日(金)より公開の『喜望峰の風に乗せて』です。

M過酷な単独無寄港世界一周ヨットレースに挑戦したアマチュアセーラーの実話を基にした映画です。ヨットレース最大の謎とされている話ですね。

Oベースとなった実話は今までにも舞台劇、小説、詩、ドキュメンタリー、さらにはオペラにまでインスピレーションを与えてきたようです。今作品では「どのあたりまでを」「どのように」描いているか気になります。

M今回は「博士と彼女のセオリー」のジェームズ・マーシュ監督と「英国王のスピーチ」でアカデミー賞を受賞したコリン・ファースがタッグを組みました。ともに実話を映画化した作品で高い評価を得ていますから、期待が高まりますね。

あらすじ

1968年、イギリスで開催されたのは、たった独りで海に出て、一度も港に寄ることなく世界一周をするという過酷なレース。参加者に華々しい経歴を持つセーラーたちが名を連ねるなか、アマチュアであるビジネスマンのドナルド・クローハースト(コリン・ファース)がいち早く参加を表明する。それによって一躍、話題の人となったドナルドは、その勇敢さを認められ、スポンサーまで現れることに。家族の愛を胸についに出発するが、待ち受けていたのは厳しい自然と耐えがたい孤独。そして、想像もしなかった自身の行動だった…。

(C) STUDIOCANAL S.A.S 2017

OMさんは、単独無寄港世界一周ヨットレースを知っていましたか?

Mはい、なんとなくは知っていましたが、あらためてみると本当に過酷なレースですね。大勢のクルーがいて作業を分担するようなレースとは違い、このレースではたったひとりでヨットに乗って、一度出港したらどこの港にも寄ることなく、一切補給も受けずに世界を一周しなければならないのだとか。

Oそう、いまなら船の位置や、海の状況、気象を把握するための精密機器がヨットに搭載されていますが、1968年のヨットにそういったものはありません。行く手に待ち構える過酷な状況や危険と孤独を考えると、ぞっとします。

Mそんなレースに、田園地帯で暮らすごく普通のビジネスマン、ドナルド・クローハーストが参戦します。日曜に趣味でヨットを楽しむ程度のアマチュアの彼がレースに挑戦すると言い出したシーンでは、おもわず「やめて!」と言いたくなりました。だってレース用のボートさえ持っていないんですよ?!

Oでも、レイチェル・ワイズが演じる妻クレアは彼の危険な賭けを止めないんですよね。なぜでしょう?

Mわたしは、彼女は夫を信頼し、夫は成功できると心から信じていたから止めなかったんだと思います。そしてクローハースト自身もその気持に応えることができるという自信もあったのではないでしょうか。

Oなるほど~。わたしは、不安はあってもやはり決意した本人の意志を尊重したいという妻の想いがあったのかな‥と想像しました。妻の心境に関する解釈は観る人によっていろいろありそうですね。

M結局、クローハーストの挑戦に投資するスポンサーからの圧力に加え、町の人々の期待を裏切れないという思いから彼は棄権もできず、準備不足のまま出発して、海に出て間もなく故障や浸水などのアクシデントが起きます。この先どうなってしまうのだろうと本当にハラハラしてしまいました。

Oそうですね、海も最初は穏やかできれいでしたが、徐々に変化し、むきだしの自然の厳しい顔を見せ始めましたよね。すれ違うイルカさえ群れなのに、主人公は海の上で本当に一人っきり。‥というか広大な海の上では人間はわずかな「点」のような存在でしかない。

M大海原で小さなヨットがポツンと漂う映像には恐怖を感じますよね。

O自然の美しさや厳しさと個人の対比を捉えることに定評のあるエリック・ゴーティエが映像を担当していますので、そうした映像表現にもぜひ注目していただきたいです。

M孤独な船上でクローハーストがしばしば思い出すのは、陸上にいた頃の家族との穏やかな会話の時間でしたね。そのせいかこの映画はアウトドア好きな人向けの壮大な冒険物語というよりごく個人的な家族愛だったり、自己実現のストーリーとしてより身近に感じられましたね。

Oはい。クローハーストは正しく強い人間とは言えないかもしれません。でも、単に無謀で自分勝手な人間でもないように思います。自分も何かを成し遂げたいと夢見ると同時に、真剣に家族を愛し自らを捧げる人間だったのかもしれません。

M過酷なレースは進むにつれリタイアする人が増えてゆきます。一方、海上から遠く離れた陸上では新聞やテレビが熱狂し、クローハーストを英雄に祭り上げていく様子も描かれていましたね。大衆から英雄を生み出したいというメディアの狂騒ぶりは今に通じるように思いました。

Oそうですね。周囲からのプレッシャーと家族への愛のなか、クローハーストの冒険はどのような結末を迎えるのか、ぜひ皆さまも映画館でご覧ください。

次回もお楽しみに!

2018.12.20

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