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気持ちのいい自転車通勤で、1日をはじめませんか?

本取材の際には、入念な感染対策を行いました。外出の際は、くれぐれも感染予防を心がけましょう

生活様式が変わりつつある中で、自転車通勤が注目を集めています。実際に始めるとなると、どんな自転車を選び、どんな準備をすればいいのでしょう。
東京・南青山「LIFE CREATION SPACE OVE」でサイクルライフコンシェルジュとして、自転車愛好家を増やしてきた松田恵美(まつだめぐみ)さんに語っていただきました。

風と光を感じながら、通勤を楽しもう。

通勤ラッシュを避けられる自転車通勤に、注目が集まっています。朝日を浴びながら、心地良いスピードで風を切れるこの爽快感は、やはり格別です。ほかにも運転に集中している間はスマホなどからの情報もシャットアウトできるため、仕事前に心身ともにリフレッシュできるメリットも。自分の体力に合わせて走れるのも魅力です。自転車はハンドル、サドル、ペダルの3点に体重が分散されるため、身体への負担も少なめ。ハードな運動をすると、身体に大きなストレスがかかる一方、サイクリング程度の適度な運動であれば血行が良くなって、全身に酸素や栄養が行き渡ります。生活様式が変わって、運動不足を気にする方にもおすすめです。

自転車通勤におすすめの距離は、5kmから15kmほど。時間にすると1時間以内で到着する距離です。体力に不安のある方は、通勤ルートの途中にある駅までは自転車で走り、ここから電車で通勤してもいいでしょう。ポイントは、難なく走れる距離から少しずつ伸ばしていくこと。これこそが楽しく続けるためのコツです。なお、会社や最寄り駅などに駐輪場を確保しなくては、自転車通勤はできません。ベストなのは有人の駐輪場です。大切な自転車が盗難されるリスクを最小限に抑えられるからです。

3種類のスポーツ車からどれを選びますか?

自転車通勤は軽快車(通称ママチャリ)でもできますが、せっかくだからスポーツ車で颯爽ときめたいもの。スポーツ車は軽快車とは違って、カゴや駐輪用のスタンドなどが取り付けられていません。できるだけ軽くすることで、より楽に、より遠くまで走れるように作られています。

スポーツ車には、大きく分けて3種類があります。スピードを重視する方におすすめなのが、今一番人気のロードバイクです。これは競技用の自転車で「ツール・ド・フランス」などの国際大会で使用されてきました。車体の重さは10kgを下回り、誰でも片手で軽々と持ち上げられるほど。下向きに半円を描いたようなドロップハンドルも特徴的です。これにより風の抵抗を受けにくい前傾姿勢で走れますが、慣れないうちは首や背中に負荷がかかります。ただし乗りこなせると他のスポーツ車にはないスピードを味わえるのが醍醐味。スピード重視のためにもタイヤは細く、空気圧も高めのため、乗ったときのクッション性は控えめ。他のスポーツ車に比べて空気が抜けるのが早いため、日頃から空気圧の管理をしないとパンクしやすい傾向にはあるものの、その弱点を補い余りある圧倒的なスピードで、ファンからの支持を集めています。

山道や砂利道などを走るために作られたマウンテンバイクを通勤に使うのも一興です。上半身を起こし視野を広く保てるフラット、もしくはアップバーのハンドル、路面からの衝撃を吸収するサスペンション、多少の段差などはもろともしない太めのタイヤが特徴的で、ロードバイクほど速度は出ない反面、ラフに乗る楽しみがあります。
空気がたくさん入る分、パンクの頻度も少なめ。オフロード向けのブロックタイヤではなく、街乗りに適したフラットなタイヤ(スリックタイヤ)に履き替えれば、舗装路も軽快に走れます。

最後は、ロードバイクとマウンテンバイクの長所をミックスしたクロスバイクです。見た目はロードバイクに近いものの、マウンテンバイクと同じタイプのハンドルを使用しているので、楽な姿勢で乗りこなせます。タイヤはロードバイクよりも太め。ロードバイクとマウンテンバイクの中間的な乗り心地で、初めてのスポーツ車としてたくさんの方から選ばれてきました。5万円台のものでも十分に軽快車との違いを楽しむことができるでしょう。

私が通勤におすすめしたいのは、視野が広く、走りも安定するマウンテンバイクとクロスバイクです。ロードバイクほどスピードは出なくても、ビギナーでも安全かつ楽に乗れるからです。とはいえ、毎日愛用するものですので、お店で用途や好みをしっかり伝えて選びましょう。これら3種類のほかに最近注目されているのが、eスポーツバイク(電動アシストスポーツ車)です。スポーツ車のスタイリッシュな見た目はそのままに、急な上り坂もアシスト機能でラクに駆け上がれますので、体力に自信のない方におすすめ。価格は20万円以上と高めですが、各社が注目しており、今後も機種が増えることが期待されます。

スポーツ車 比較一覧
ロードバイク クロスバイク マウンテンバイク
特徴 速く、遠くに行きたい方向け 街でスポーツ車に乗りたい方向け 街もオフロードも楽しみたい方向け
重量 8〜10kg 10kg〜12kg 13〜15kg
スピード 25km/h 20km/h 18〜25km/h
ハンドル ドロップハンドル フラット(アップ)バーハンドル フラット(アップ)バーハンドル
タイヤ 細め 中ぐらい 太め
パンク 多め やや少なめ 少なめ
価格 8万円〜 5万円〜 5万円〜
通勤
※パンクに関してはタイヤの空気圧管理をしっかりすることで頻度を下げることができます。

スポーツ車 比較一覧

ロードバイク

特徴
速く、遠くに行きたい方向け
重量
8〜10kg
スピード
25km/h
ハンドル
ドロップハンドル
タイヤ
細め
パンク
多め
価格
8万円〜
通勤

クロスバイク

特徴
街でスポーツ車に乗りたい方向け
重量
10kg〜12kg
スピード
20km/h
ハンドル
フラット(アップ)バーハンドル
タイヤ
中ぐらい
パンク
やや少なめ
価格
5万円〜
通勤

マウンテンバイク

特徴
街もオフロードも楽しみたい方向け
重量
13〜15kg
スピード
18〜25km/h
ハンドル
フラット(アップ)バーハンドル
タイヤ
太め
パンク
少なめ
価格
5万円〜
通勤

※パンクに関してはタイヤの空気圧管理をしっかりすることで頻度を下げることができます。

自分だけの一台にすると、自転車はもっと楽しい。

スポーツ車選びの際に気をつけたいのはフレームサイズです。多くの車種はS、M、L、XLといったサイズ違いを用意しているため、実際にまたがりながら適切なサイズを見きわめるのが基本となります。ここで避けたいのが、サイズを無視してオンラインなどで購入すること。洋服と同じで、サイズが合っていなければせっかくのスポーツ車も台無しです。適切なサイズ選びも大切ですが、ハンドル、サドル、シートポスト、ステムといったパーツを交換することで、より自分の身体にフィットする一台へとカスタマイズしていくことも、スポーツ車の醍醐味です。こうしてベストの乗り心地を追求する一方、タイヤやグリップなどのパーツの色を変えることで自分好みのルックスを追求する楽しみもあります。

いずれにしても、「自分にはどのスポーツ車が向いているのだろう」と悩んでいるビギナーの方は、親身に相談に乗ってくれる専門店を見つけるのが近道です。好みの乗り方と予算を伝えれば、ともに最適な一台を探してくれるでしょう。初めての一台をきっかけとして、スポーツ車の楽しみがわかってくれば、どんなカスタマイズが必要かもわかってきます。知れば知るほど、その奥深さに魅了されるはずです。

本体以外にも警音器である「ベル」と、夜間走行に必要な「前照灯」「反射板(もしくは尾灯)」は必須アイテムです。大人のヘルメット着用は義務づけられてはいませんが、「ヘルメットのおかげで助かった」という声も多いため、できれば一緒に準備したいもの。もうひとつ欠かせないのが、盗難防止用の鍵です。前輪、フレーム、後輪をまるごと通せる180cmほどの頑丈なチェーンキーや、2本の鍵で前輪や後輪を留める2重ロックなど、盗難されにくいものを選びましょう。

その他にあると便利なアイテム
サングラス 車が巻き上げる埃や砂利から目を保護します。
グローブ 手の汗で、ハンドルが滑らないように防ぎます。
サイクルコンピュータ 走行距離、スピード、最高速度、ペダルの回転数などを表示できるため、モチベーションアップに効果的です。
裾止めバンド ズボンの裾が、チェーンに絡むのを防止します。

安全にカッコ良くが、自転車通勤のマナーです。

自転車通勤をする際には、基本的に動きやすいストレッチ性の高いウェアを選びましょう。スーツを着用する必要がある方には、自宅でも洗えるストレッチスーツがおすすめです。どんなアウターをまとうにしても、出社後にはインナーだけでも着替えましょう。汗を拭うことで仕事に臨む気持ちはぐっと高められます。靴は、接地面積が広くグリップ性の高いスニーカーがおすすめです。紐がある靴の場合、チェーンに巻き込まれる危険性があるため、結んだ紐を足の甲などに収めておきます。革靴やパンプスは会社のデスク下に置いておき、出社後に履き替えてもいいでしょう。

もうひとつ忘れてはならないのが、保険への加入です。おすすめなのが、自転車保険。これは運転中に本人がケガをした場合の補償と、誰かにケガを負わせてしまった場合の個人賠償責任の補償を兼ね備えています。道路交通法では、自転車は自動車と同じ軽車両のひとつなので、大事故に遭遇する可能性はゼロではありません。最近では賠償金が高額になるケースも増え、さまざまな自治体が保険の加入を義務付けています。月々数100円で加入できるものも多いので、ぜひ万が一のケースに備えてください。

最後に、交通ルールのおさらいを。道路交通法上、自転車の走行場所は車道の左端(第1車線)とされています。そのため通勤ルートにはできるだけ広い幹線道路を選ぶことで、安全性を高めましょう。ただし、定められた通勤ルートを大きく離れると労災の対象外になりかねないため、勤務先にも事前確認が必要です。右折するときに必要な「二段階右折」もお忘れなく。交差点を直進して渡り切ったら、進行方向を右に変え、対面する信号が青になったら再び直進します。ここで「交差点を渡るのが怖い」と感じたら、潔く自転車から降りて横断歩道を歩きましょう。自転車を手で押している限りは歩行者扱いになるため、歩道を安全に行き来できます。

自転車は、休日のお出かけや街ブラといった小旅行にも役立つ、良き相棒になります。通勤はもちろんプライベートでも、お気に入りの1台とともに楽しい日々を歩んでいただければと思います。

2021.04.01

松田恵美(まつだめぐみ)さん

サイクルライフコンシェルジュ

体育大学卒業後、スキーや登山などのアウトドアモデルとして各媒体で活動。その中で体験したマウンテンバイクに魅了され、ダウンヒルレーサーとして本格的にレースに参戦する。2003年には、日本自転車競技連盟の最高峰にあたるダウンヒルのエリートクラスでナショナルポイントランキング6位に。レースに参戦する傍ら、自転車整備を学ぶためマウンテンバイク専門店に勤務。スポーツバイクの販売や修理、組立に携わる。現在は南青山「LIFE CREATION SPACE OVE」で、自転車に関する相談や、散歩をするように自転車で走る「散走」、チューブ交換等の講座を通じて自転車の楽しみ方を普及させている。

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