和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。

和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

郷土料理は旬を楽しむ知恵の賜 ~料理研究家 鈴木登紀子さんインタビュー~郷土料理は旬を楽しむ知恵の賜 ~料理研究家 鈴木登紀子さんインタビュー~

2020年12月28日、料理研究家の鈴木登紀子さんが永眠されました。
ご冥福を心よりお祈りいたします。

編集部
青森県八戸からご結婚を機に上京されたのは、70年近くも前のことだそうですね。
鈴木さん(以下 敬称略)
戦後まもない昭和22年でした。世の中はまだまだ混沌としておりましたよ。食糧難の時代、闇市もありました。それでも実家の母が月に一度、お米やじゃがいも、乾物などをりんご箱いっぱいに詰めて送ってくれましたので、なんとか家族にごはんを食べさせることができましたの。お米は貴重なので、刻んだ大根を混ぜて炊いたりしてね。ごちそうは、あるもので工夫すればいいのよ。それは、豊かになった今の時代も同じ。そうしてパパと3人の子どもたちのためにおいしい料理を考えて作る毎日は、本当に楽しく充実していましたね。
編集部
ずっと専業主婦をしていらしたのが、46歳でお料理研究家へと転身。どんないきさつがあったのでしょう?
鈴木
ご近所にリウマチでお体が不自由なおばあさまがいらしてね、子どもたちがお庭をかけ回っていつもお騒がせでしたので、年の暮れにおせちをお届けしたの。バラの花を1本添えてね。そうしたらとても喜んでくださったので、その後もお料理をお届けするうちに近所でも評判になってしまったの。それで、わが家の台所でにわか料理教室を始めたら生徒さんがどんどん増えて、46歳のときにNHKの『きょうの料理』からもお声がかかりました。不思議なご縁ですわね。
編集部
『きょうの料理』の出演歴はもう40年。人生の大半をお料理に捧げていらっしゃいますね。
鈴木
私はお料理作りを楽しむのが一番の幸せでした。結婚して最初のおせちを作っていたときにね、いつも無口なパパが「料理は楽しいかい?」って聞いてきたことがあるの。「楽しいわよぉ」ってすぐお返事したんだけど、パパには見ているだけでそれがわかったみたい。私は料理が好きでたまらないし、パパもそれを応援してくれている。その無言の後押しがあったから、料理をお仕事にすることができたのね。基本的には家の台所でできる仕事だから、家族に不便をかけることもないし、精進してますますおいしいものを食べさせてあげることもできる。お料理を仕事にできたのは最高に幸せなことだと思っているの。
編集部
お料理の手ほどきは、やはりお母様からですか?
鈴木
ええ。私の母はとても料理上手で、お酒が好きな父のために毎日手間暇かけて酒の肴を作っていたの。私はそれをいつも横で見ていて、できた料理を運んだり、味見させてもらったりしているうちに、自然と料理の基本が身に付いたのね。だから私の作る料理は、どれも母から受け継いだものばかり。なかでも母譲りの太巻きは、わが家のハレの日に欠かせない一品。母の太巻きは海苔を2枚も使ってね、直径10センチほどもあるそれは大きく華やかなものでした。海苔2枚だと巻きすが間に合わないので、私の場合は1.5枚。それをごはん粒でくっつけたものに酢飯を敷いて、しいたけ、厚焼き卵、鱈のおぼろ、三つ葉、紅しょうがなどの具材を載せて巻く。大輪の花のような太巻きは、パパや子どもたちの大好物でもありました。
編集部
故郷・八戸の食にまつわる想い出をお聞かせください。
鈴木
私の子どもの頃の八戸は本当に自然が豊かで、山や海から四季折々のごちそうが届きましたの。そのときどきの旬の食材を使って、春はウドと筍の木の芽和えやアオヤギとワケギのぬた、夏はウニとアワビのいちご煮、秋は脂の乗った戻り鰹をおろして、身はお刺身などにして血合いは串焼きに、そして冬は鱈や白子をお鍋にして……。毎年めぐる季節のお味は楽しみでした。それを浜の女衆が天秤棒を肩に担いで売りに来るのですが、小走りで威勢がよくて。子どもながらにわくわくする光景でした。
編集部
なかでも自慢の郷土料理といえば、何でしょう?
鈴木
やっぱりお雑煮ね。母の作る「南部雑煮」は、短冊に切った大根、にんじん、ごぼうに、鶏肉、かまぼこ、角餅、そしていくらがたっぷり入った豪華なものでした。でもいくらが乗るのは三が日だけ。4日目からは千切り大根ににんじん、油揚げを入れ、味噌で味を調えてせりを散らした「ひきな雑煮」をいただきます。お正月のごちそう攻めのあとのひきな雑煮は体にやさしく、とても理に適ったものなのよ。母の2つのお雑煮はわが家はもちろん、娘たちの家庭にも受け継がれています。
編集部
八戸から東京へ、祖母から孫へ。時間も場所も越えて大切に伝えられた郷土の味ですね。
鈴木
でもね、郷土料理はその土地で食べてこそ、本当のおいしさがわかると思うの。そのときその場所だけの旬の食材を新鮮なまま、作りたてを味わう。旬の時季は短いから、昔の人は食材をとても大事にしていましたし、最後までおいしく使い切るためにさまざまな工夫を凝らした。そうして生まれたのが、各地の郷土料理であり日本料理なのね。今は世界中の料理が手軽に楽むことができますが、もっと日本の料理を大切にしていただきたいわね。これほど繊細で美しいお料理はないもの。私はつねづね、「食べることは、生きること」って言い続けているけれど、この年になって本当にそう実感しています。おいしいものを食べると、本当に元気になるの。お医者さまもびっくりしてるぐらいよ(笑)

料理研究家
鈴木 登紀子さん

1924年、青森県八戸市生まれ。幼い頃より料理上手の母に手ほどきを受ける。結婚後、その家庭料理が評判となり、46歳で料理研究家としてデビュー。自宅で「鈴木登紀子日本料理教室」を主宰するとともに、NHK『きょうの料理』などの料理番組や雑誌で活躍。和食の第一人者として、料理のみならず行儀作法もきびしく、ときにユーモアたっぷりに伝え、「ばぁば」の愛称で幅広い世代に親しまれている。

第九回 東北 東北の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~第九回 東北 東北の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~