和食シリーズ企画第3弾

これからの和食を考える。

ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化。 未来へつなぐために、今できること。ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化。 未来へつなぐために、今できること。

第4回 かつお節
かつおだし、
うまみを育む自然と技

株式会社にんべん 研究開発部 荻野目 望さん

素材のおいしさを引き立てる“だし”は、和食の基本。なかでもかつおだしは、
独特の風味と香り、手軽さから家庭でも人気です。そこでかつおだしをもっと深く味わうために、
意外と知らないかつお節のこだわりの“いろは”を株式会社にんべんの研究開発部、荻野目望さんに伺いました。

季節で変わる、カツオのおいしさ

編集部
私たちが毎日、何気なく使っているかつお節ですが、実は知らないこともたくさんあるように思います。まずは原料であるカツオについて、教えてください。
荻野目さん(以下、敬称略)
かつお節に使われるのは一種のみ。スズキ目、サバ科、カツオ属に属したカツオです。地方ではホンガツオ、マガツオとも呼ばれますが皆同じです。日本では近海の温帯海域に春から秋に餌を求めて回遊します。
編集部
季節によって初ガツオ、戻りカツオなどと呼び方が変わりますが、どのような変化があるのですか?
荻野目
初ガツオは、春に黒潮流域のトカラ列島近海、九州沖、四国沖、紀州沖、遠州灘沖で獲れます。この時期のカツオは、脂質も少なく体重の0.5%ほど。一方、秋の戻りカツオは岩手沖〜房総沖で漁獲され脂質6.2%の脂の乗った状態になっています。しかしかつお節には脂質が少ないカツオのほうが適しています。脂質が多いと酸化生成物により風味も劣化する上に、削り加工の際に粉末ロスが多く生じてしまうのです。だからかつお節メーカーは脂の少ないカツオを購入しています。

カビがもたらす、発酵の不思議

編集部
かつお節はカビ菌によって熟成される発酵食品であることに、不思議な魅力を感じます。かつお節は、どのように生まれたのですか?
荻野目
すでに室町時代にはかつお節が作られていましたが、江戸時代に流通が盛んになると、長距離を輸送する間に発生するカビに悩まされるようになりました。そこで節の表面に優良カビを生やすことで不良カビが生えないようにする手法が生み出されました。また生産地の土佐、薩摩から大阪に集められたかつお節は、さらに江戸へ「下りもの」として流通しましたが、ここでも新たにカビが発生するようになりました。度重なるカビを払い落としているうちに、臭みが消え、うまみが増し、かつお節が良質になることに気づいたのです。そうやってカビ付けを繰り返すかつお節のおいしさは、やがて江戸後期の食文化として広がっていきました。
編集部
カビによる熟成は、かつお節にどのような効果をもたらしているのですか?
荻野目
カビは、節の乾燥を穏やかに促します。カビの生育は、生臭みを減少させ、燻煙臭の一部を甘い芳香臭に変化させます。また多量の優良カビを生育させることで、不良カビの発生を防ぐなど、さまざまな利点があります。昔は、自然のカビを使っていましたが、現在はにんべん独自の研究成果によって、優良カビを純粋培養し、人工的にカビ付けを行っています。

手間ひまかけて、うまみを引き出す

編集部
カビ付けしたものと、そうでないものとでは風味も変わるということですね?
荻野目
はい、カビ付けせず焙乾しただけのものは荒節と呼ばれ、燻しの香りが強く、煮物やめんつゆなどコクのある調理にむいています。2回のカビ付けと日干しを行ったかつお節は、枯節と呼ばれ、香りやうまみが洗練されています。カビ付けと日干しを4回以上行った節は本枯節(ほんかれぶし)と当社では規定しており、クセのない凝縮された風味が特長です。枯節、本枯節は上品な香りから、お吸い物や繊細な和食などに好まれます。
編集部
部位等によっても風味は変わりますか?
荻野目
ええ、例えばカツオの背と腹でも違います。腹節は脂肪が多くややコクがありますが、背節はすっきり、クセのないだしになります。血合い部分もコクを生み出しますが、あまり多いとおいしくありません。ほどよいコク味を出すなら血合いは15〜20%くらいがいいですね。そばつゆなどには血合い入り節が合います。逆にお吸い物には血合い抜きの節ですっきりした風味が好まれます。

おいしさを極める、かつおだしのとり方

編集部
家庭でのおいしいかつおだしのとり方について教えてください。
荻野目
うまみ成分を抽出しやすいのは硬水よりも軟水です。家庭の水道水で十分です。水1Lに対し、かつお節は20〜30gが適量です。鍋で水を沸騰させたら、一度火を止めて削り節を入れます。85〜90℃の水温にするためです。その後1〜2分ほど削り節が沈むのを待ってから、ザルにふきんかキッチンペーパーを敷いてこします。
編集部
そうなんですね、今まで微沸騰で煮出していました。
荻野目
かつお節の香りは揮発性なので、香りを大事にするためにも短時間で抽出することをおすすめします。ただ、二番だしで煮物やみそ汁を作るときは、3〜5分ほど弱火で煮出すのがいいでしょう。
編集部
だしをとったあとのかつお節の調理法などありますか?
荻野目
だしがらには、十分にたんぱく質が残っています。醤油、みりん、砂糖で味付けしておかかふりかけを作ってみてはいかがですか?
編集部
かつお節のちょっと意外な調理法などあれば、教えてください。
荻野目
手軽に楽しめる調理法に「かちゅー湯」があります。沖縄の定番スープですが、削り節に、味噌、ネギやお好みの食材を入れて頂きます。かつお節にはたんぱく質、ナイアシン、ビタミンB12など豊富な栄養素が含まれています。また、かつお節に多く含まれるヒスチジンは、食後の満足感をもたらしてくれます。さらに、香りに減塩効果がありますので、健康食として活用してください。
編集部
かつお節は身近な素材でありながら、まだまだ知らないことがあって奥が深いと実感しました。これからの和食を考えた時に、かつお節、かつおだしに期待すること、願うことなど教えてください。
荻野目
若い世代の人たちには、かつお節は古くて新しいものではないでしょうか。日本橋直営店の「日本橋だし場」や、小学校の食育の場などで、できたてのかつおだしを体験して頂くと、皆さん「おいしい!」と感動してくださいます。昔は各家庭でかつお節を削り出していた時代もありましたが、今は一世帯の削り節の年間購入量は約300gに過ぎません。少しでも本物の味を伝え、かつおだしの魅力を広めたいと思っています。子どもの頃から本物の味を知ることは大切ですから、小学校などに出向いての食育講座も積極的に行い、和食文化を伝えていきたいですね。

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2017.02.06