代表執行役 執行役社長
漆間 啓

サステナビリティ経営のさらなる深化

三菱電機グループは2022年度、経営方針においてサステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけました。これに伴い、私たちが意識すべきポイントは「持続可能な社会に事業で貢献」「持続可能な社会への責任」「長期の社会変化・環境変化に対応するリスク管理」「ステークホルダーとのコミュニケーション」の4点であると整理しました。

また、サステナビリティ経営の推進のため、「事業を通じた社会課題解決」「持続的成長を支える経営基盤強化」の2つの面から、5つのマテリアリティ(重要課題)を特定しています。

「事業を通じた社会課題解決」では、注力する領域として「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「安心・安全」「インクルージョン」「ウェルビーイング」を明確にするとともに、SDGsの5つの目標に重点的に取り組んでいます。

特に「カーボンニュートラル」への対応は私たちが強みを発揮できる分野であり、「責任」と「貢献」の両面から取組みを加速させています。自社の脱炭素を目指す「責任」面では、これまで2030年度の目標としていた「工場・オフィスでの温室効果ガス排出量を50%以上削減(2013年度比)」を見直し「2030年度に実質ゼロを目指す」と排出量の削減目標を上方修正しました。「貢献」面では、社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献する事業の創出・拡大を目指しています。

他の4つの課題領域についてもカーボンニュートラル同様、事業を通じた持続可能な社会への「貢献」面だけでなく、持続的な社会への「責任」として課題解決に取り組み、そこで得られた知見や良好事例を事業に展開していくという循環も実現していきたいと考えています。

「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革

三菱電機グループは長期視点のもと、グループ内外の知見の融合と共創により、新たな価値を提供する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革に向けた取組みを進めています。当社グループは、従来、製品・サービス単体を販売し、コンポーネントを主体に事業を展開してきた会社です。私たちが納入した製品をお客様が使用するとき、そこには運用状況等のデータが蓄積されますが、今日ではこれらのデータの重要性が一段と高まっています。お客様から得られたデータをデジタル空間に集約し、分析するとともに、グループ内が強くつながり、知恵を出し合うことでコンポーネント、システム、統合ソリューションを進化させ、新たな価値を生み出し、その価値をさらに幅広いお客様に還元する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」へと変革し、多様化する社会課題の解決に貢献してまいります。

一部では、既にこうしたビジネスが育ってきています。例えばFAシステム事業では、お客様の生産ラインをデジタル上に再現した「デジタルツイン」において、現実空間で蓄積したデータの分析を通じてシミュレーションを行うことで、製造プロセスの効率化や適切なメンテナンス方法等、コンサルティングにまで踏み込んだ提案をすることが可能になりました。これにより、お客様に新しい価値を提案できるだけでなく、私たちのビジネス領域を大きく広げることができると考えています。

多様・多才な人財の育成

三菱電機グループの持続的な成長のためには、その原動力となる「人財」の育成は極めて重要です。このような考えの下、企業が成長していく上で核となる「人」への投資を拡大、強化します。特に個人のキャリアオーナーシップを尊重し、自ら考え、主体的に行動し、挑戦し続ける「多様・多才な人財」を大切にしていきます。加えて人的資本の価値最大化のためには、人財戦略は事業戦略と統合されていなければなりません。例えば、私たちが目指す「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」を実現するためには中核を担う人財として、コアコンポーネントやフィールドナレッジを基にデータやシステムを繋ぐ全体像を設計できる「DXシステムアーキテクト」や、DXに係るソフトウェアやシステムの開発・実装を担う「DXエンジニア」等が必要です。5年後、10年後の事業のありたい姿に向けて人財を採用・育成してまいります。

ジェンダーバランスの観点では、国内拠点における管理職の男女比率等にまだ課題があると感じています。従業員が等しくチャンスを得られるようにするには、「男性だから、女性だから」といった無意識のバイアスをなくしていかなければなりません。また、事業所内託児施設の拡大等、育児中の従業員が働きやすい環境づくりも進めています。2022年4月からは、マネジメントのプロフェッショナルを育成する「社長塾」を、新任執行役等を対象にスタートしています。その手前の段階として、次世代の経営幹部候補を計画的に育てていくことも不可欠です。候補者へのアセスメントを行い、海外経験や業務経験の面で不足があれば早期に補うことで、将来に向けたキャリア形成を促進していきます。さらに、能力のある若手を登用する仕組みづくりや、グローバル環境での人事異動を活性化するためのジョブグレーディングの導入等にも取り組んでいます。

3つの改革

信頼回復に向けた3つの改革「品質風土改革」「組織風土改革」「ガバナンス改革」については着手から約1年が経過、改革に向けた施策は計画どおり進捗しています。

品質風土改革では、顧客に対して技術的に正しい説明を尽くす組織能力を再構築するとともに、経営層自らお客様と対話・交渉することで現場の負担を軽減し、「そもそも現場が品質不適切を起こす必要のない仕組み」の構築に取り組んでいます。

組織風土改革では、“上にものが言える”、“失敗を許容する”、“共に課題を解決する”風土の醸成を図っています。経営層自らの変革や管理職の行動変容等に力を入れ、経営層と現場社員が同じ目線で本音を語り合う「タウンホールミーティング」や、社内SNSを活用した対話等の取組みを進めています。

ガバナンス改革では、予防を重視したコンプライアンスシステムの構築を進めています。外部の視点を適切に入れることで、不正が起こらない、起こさないガバナンス/内部統制の仕組みを実現していきます。2022年度に受けた第三者機関による取締役会実効性評価では、実効性の向上が認められました。また、2023年6月の第152回定時株主総会において、新たに2名の女性社外取締役が選任されました。今後も、独立社外取締役が過半数を占める取締役会において、ジェンダーや国際性、職歴、年齢等の多様性がもたらす多角的な視点で事業の発展に努めていきます。

三菱電機グループの存在意義と従業員一人ひとりのマイパーパス

私たちは企業理念、会社のパーパスとして、「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」を掲げ、企業活動を行っています。これは三菱電機グループの存在意義、会社のパーパスであり、常に追求し続ける究極の目標です。

企業理念、会社のパーパスが組織としての志であるのに対し、それを着実に実行していくために欠かせないのが、従業員一人ひとりの志、「マイパーパス」です。現在、グループ全体で企業理念を自分事化していくためのマイパーパス活動を進めています。

私自身は、「三菱電機グループを活力ある会社にする。そのために“情熱・熱意・執着心”を持ち続ける」をマイパーパスとして掲げました。現在、私を含む役員全員がマイパーパスを社内に発信しており、今後、この取組みを順次、部長・課長クラスから現場へと広げていく予定です。変化を起こすためには、個々人が主体的に動くことが必要であり、その意味で各自がマイパーパスを明確にする意義は大きいと考えています。マイパーパス活動を通して、従業員が自分の日々の業務の中で三菱電機グループが目指すものを実感・実現できるよう、この活動を進めていきたいと考えています。

2023年7月
代表執行役 執行役社長
代表執行役 執行役社長 漆間 啓