開発NOTE

「水柱を切り離す」から
「電流を海中に流さない」へ、
発想を転換。

「水柱を切り離す」から「電流を海中に流さない」へ、発想を転換。

今回の技術の最大のポイントは「絶縁ノズル」です。通常、金属製の垂直型アンテナは、立てる土台に電流が逃げないように、土台とは切り離されて固定されます。しかし「シーエアリアル®」は周囲の海水をポンプで噴き上げてアンテナとして動作させるため、周囲の海水と水柱が物理的につながっています。そのため水柱に高周波電流を流しても、電流が海中へ逃げてしまいます。土台にあたる周囲の海水と水柱を切り離すにはどうしたらいいか。水柱を間欠的に噴き上げて、噴き上げた瞬間に電流を流す。そんなアイデアも考えましたが現実的ではなく、正直行き詰まっていました。

解決の糸口となったのは、当時たずさわっていた別のとある研究でした。それは基板の伝送回路上で、特定の周波数の電流だけを流さないようにする技術でした。この基板の回路をノズルの構造に置き換えれば、物理的につながっていても海中に電流が流れなくなる。つまり電気的には切り離せる、そう思ったのです。それまでは「水柱と周囲の海水をいかに切り離すか」そればかり考えていました。それを「電流を海中に流さない」という発想に変えたのです。その結果が「絶縁ノズル」です。このノズルなら特殊な部品はいっさい必要なく金属の形だけで電流を遮断できます。問題の答えは意外にもシンプルなものでした。これに気が付いたときはまさに目から鱗でした。

まずは海水の特性を知ることから。この研究は初めてのことばかりでした。

情報技術総合研究所 秋元 晋平情報技術総合研究所
秋元 晋平

この研究はペットボトルに入れた海水がアンテナとして動作するのか、そんな基本的な実験からスタートしました。海水自体が導体なので、水柱さえうまく噴き上げれば、アンテナとして動作するだろう、最初はそう思っていました。しかし何度シミュレーションを繰り返しても思うような結果は得られませんでした。なぜうまくいかないのか皆目見当がつかず、さまざまな方法を試していくうちに「水柱を太くすればどうだろう」とふと思ったのです。結果はいままでとは大きく異なっていました。水柱がアンテナとして動作していたのです。

海水は導電率が低いため細い水柱だと受信した電波が通り抜けてしまいます。しかし水柱を太くすれば、金属と同じように電波をしっかりとらえられるのです。太くすれば性能が上がる、当たり前のことのようですが、この発見は今後アンテナ性能の向上を図っていく上でも、とても重要なことなのです。

海水はおろか液体をアンテナの素材に利用するのは初めての経験です。まず海水の特性を知ることから始め、同じ部署の方々に協力をいただきながら、ここまでたどり着くことができました。アイデアはひとりで考えていてもなかなか出てくるものではありません。多くの人と話し、その方々から得た知識が新しいアイデアを生む源になるのです。