開発NOTE

様々な分野で培ってきた技術を
集結して高速遮断性能を実現しました。

様々な分野で培ってきた技術を集結して高速遮断性能を実現しました。

先端技術総合研究所 相良 雄大先端技術総合研究所 相良 雄大

今回の遮断器では接点構成にも、従来にない新しい試みを取り入れています。接点構成を改良する上で、一番の核となるのが接点材料の選定です。これによってアーク駆動時間が大きく変わってきます。まず候補のひとつであった材料で試験を行ってみました。ところがアークが接点からある一定の地点に移るまでに約10msも時間がかかってしまったのです。目標ではアークが消え、電流を遮断するまでの時間を10msと定めていました。この材料では目標に遠くおよびません。新たな材料を求め論文などで情報を集める日々が続きました。その結果、ある材料に行き着いたのです。この材料はいままであまり使われたことがなく、開発メンバーの中でも「本当にそれを使うのか」と思った人もいたはずです。しかし試験結果はその疑念を打ち払うものでした。

新しい材料が見つかったことで課題解決へ光が見えてきましたが、目標の時間をクリアするためには、さらに改良が必要でした。それが突起形状の採用です。この突起形状は従来、小電力向けの遮断器に使われてきたものです。これを鉄道向けに採用することにしました。今回の開発メンバーは、各分野の遮断器のプロの集まりです。それぞれのメンバーが他分野で培ってきた技術やノウハウ・経験、それらすべてを集結して高速遮断性能を実現しました。

直流100kAの電流をはじめて流した時の緊張感は忘れられません。

直流100kAの電流をはじめて流した時の緊張感は忘れられません。

JIS規格取得のための最終試験はドイツにある施設に遮断器を持ち込んで行いました。国内には100kAの直流電流で遮断試験を行える施設がないのです。それまでに数え切れないほどシミュレーションを繰り返し、できうる限り試験を行ってきましたが、実際の100kAの直流電流を流すのは、ドイツでの試験がはじめてでした。

アークが発生した際のエネルギーはとても大きく、もし試験に失敗すれば遮断器を壊す恐れがあります。また場所がドイツのため、何度も試験に行くことはできません。まさに一発勝負といった心境でした。試験装置のスイッチが入る瞬間は、非常に緊張したのを憶えています。試験に成功した後、試験員が私たちに向かってひと言「Fast(速い)」と言ってくれました。世界の各メーカーがこの施設に遮断器を持ち込んで試験を行います。数多くの遮断器の試験を見てきた試験員が私たちの技術を認めてくれた、そんな思いがしてとても印象に残っています。

開発メンバーの熱い思いがあってこそ、ここまで来られたと思います。

開発メンバーの熱い思いがあってこそ、ここまで来られたと思います。

今回の開発メンバーのモチベーションは非常に高く、世界一を目指すというひとりひとりの熱い思いがあってこそ、ここまで来られたと思っています。鉄道向け直流高速度遮断器の開発は数十年ぶりで苦労したので、今回の経験やノウハウを次の製品に、次の世代に継承していくのも私たちの使命だと思っています。世界最速の遮断、すなわち世界一の技術を開発したという自負はあります。それは研究者・技術者として、とても大きな自信になりました。

今回は鉄道向けですが、直流電流の送電系統は増えていく傾向にあります。例えばビルの受配電や太陽光発電システムなどです。この技術をそういった分野にも将来的には広げていけたらと思っています。鉄道向け直流高速度遮断器は世界中のメーカーがライバルです。国内はもちろん世界に目を向け、今後もさらに技術を磨いていきたいと思います。