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HTV用トランスポンダ・アンテナ技術

宇宙ステーション補給機HTVの運行を支える先進の通信技術。

情報提供 : 宇宙航空研究開発機構(JAXA)

技術紹介

トランスポンダ・アンテナの自社製造を完遂。

高度約400km、秒速約8kmで地球を周回する国際宇宙ステーションISS(International Space Station)に、物資を輸送する宇宙ステーション補給機HTV(H-II Transfer Vehicle)。三菱電機ではHTVの安全・確実な運行を支援する通信技術を開発。小型・高性能な4線巻きヘリカルアンテナとトランスポンダの自社製造を完遂しました。トランスポンダとは変復調部と高周波部により構成される通信装置の心臓部です。変復調部は受信電波をデジタル信号に、デジタル信号を電波に変換する働きをします。また高周波部はHTVが通信で利用する高周波数帯の電波を変復調部が扱える数十MHzの低い周波数に変換する役目を担っています。幅広い通信分野で永年培ってきた三菱電機の高度な通信技術が、日本の宇宙開発を支えています。

4線巻きヘリカルアンテナ
HTV用トランスポンダ・アンテナ技術
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「巻き戻し」という独自の発想から生まれた
4線巻きヘリカルアンテナ。

HTVは中継衛星を介して地上局と通信を行っているほか、GPS信号により位置測定を行うためにISSとも通信を行っています。宇宙空間を安全に飛行するには高信頼な通信の確保は不可欠です。そのためにまずHTVがどんな姿勢になっても、中継衛星などの電波をキャッチできる広い指向性をもったアンテナが必要です。今回開発した4線巻きヘリカルアンテナは広角な指向性と高感度を実現するとともに、小型化にも成功しました。そのキーとなったのが電波の「重ね合わせ原理」を応用した「巻き戻し」技術です。これは三菱独自の発想によるものです。従来の4線巻きのように4本のヘリカル素子を単純に螺旋状に巻くのではなく、巻き戻し部分をつくることで、1本のアンテナでありながら特性の異なる2本のアンテナを一体化したような広い指向性が確保できます。線状のヘリカル素子を巻き戻すというシンプルな発想ですが、単純だからこそ、複雑な回路などが必要なく小型化、さらには高い信頼性も実現できたのです。三菱電機は地上通信から衛星通信まで、さまざまなアンテナ開発に携わってきました。その豊富な経験と技術の蓄積があってこそ、今回の4線巻きヘリカルアンテナは完成したのです。


開発NOTE

情報技術総合研究所 
宮下 裕章
鎌倉製作所 
藤村 明憲
本社 
川上 憲司

情報技術総合研究所
宮下 裕章

鎌倉製作所
藤村 明憲

本社
川上 憲司

高周波部の回路面積を従来の約2/3まで小さくしました。

トランスポンダの高周波部には、ミクサと呼ばれる高周波デバイスが搭載されています。いままでのミクサでは周波数を変換する際に、例えば2GHz周波数帯の電波であれば一旦、数百MHz程度に変換し、再度数十MHzまで変換するという方法をとっていました。しかし今回開発した平面型ミクサは2GHzの周波数を数十MHzまで一度に変換することができます。変換の手順を2回から1回に減らしたことで、回路を簡略化でき、高周波部の回路面積を従来の約2/3まで小さくできました。回路をいかに小さくするかは、衛星搭載機器にとって大きなテーマのひとつです。また今回の平面型ミクサでは交差配線を行っていません。交差配線とは道路で言えば立体交差のようなもので、交差する配線を浮かせて接続する方法です。宇宙搭載部品は高い耐久性・信頼性が要求されます。交差配線をなくせば配線がシンプルになるので、トラブルが起きる可能性も減るのです。本平面型ミクサは、セラミック基板上に回路を構成しています。

HTV用トランスポンダ・アンテナ技術
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トランスポンダ ©JAXA

フルデジタル化で高性能・高信頼を実現しました。

新しく開発した変復調ASICはフルデジタル化を実現しています。従来の変復調部の場合、一部のアナログ部品を別付けする必要がありましたが、今回のASICはすべてをひとつのチップに収めました。アナログ部品は温度や経年劣化で性能が変化することがありますが、フルデジタル化で信頼性が一層高まったと言えます。またワンチップに集約したことで小型・軽量化にも貢献しています。携帯電話の基地局など、地上通信で使用される変復調器に比べ、今回の変復調器の最も大きな違いは通信用の電波とISSとの距離を測るための電波を同時に扱わなければならないことです。高感度で通信を行いながら、距離を高精度で測るにはどうすれば良いのか。基本的な方式を決定するまで、非常に苦労しました。2つの電波を扱うことは複雑な処理を行えば可能ですが、それでは回路が大きくなってしまいます。よりシンプルな方法で、より小さなチップで通信と距離測定を実現するために、何度もシミュレーションを行いました。試行錯誤を繰り返した結果、業界に先駆けてフルデジタル化に成功し、通信については劣化量わずか1dB以下の高感度、距離測定でもプラスマイナス1m以下の高精度を実現しました。

HTVからシグナスへ、三菱の通信技術は世界に認められています。

今回の開発が始まったのは、今から7年程度前のことでした。しかし自作の部品で、HTVの通信装置を作り上げたいという強い想いはもっと以前から技術者同士で共有していました。HTVは1年〜1年半のペースで今後も打ち上げられます。日本の宇宙開発の歴史にとって非常に重要なプロジェクトに参加できたことを、心から誇りに思っています。またスペースシャトルに代わりISSへの物資輸送を担う、NASA(米航空宇宙局)のシグナス9機にも今回開発したトランスポンダの搭載が決まっています。我々が開発した技術が日本から世界へ拡がっていくことは技術者として大きな自信になるだけでなく、今後の日本の宇宙産業を考える上でとても意義があることだと考えています。


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