注目の研究・技術

印刷用ページへ

列車回生電力融通技術

回生エネルギーを最大限に活かし、さらなる省エネへ。


技術紹介

IT技術を駆使し、回生電力を有効に活用。

列車の省エネを支える技術のひとつに回生ブレーキがあります。回生ブレーキとは列車のもつ運動エネルギーを電気に変換することでブレーキをかける技術です。三菱電機ではこの回生ブレーキで発電した電力をより有効活用し、鉄道システム全体の省エネを実現する「列車回生電力融通技術」を開発しました。
従来の直流電気鉄道システムでは、列車に電力を供給する変電所の出力電圧は固定されていました。「列車回生電力融通技術」では、無線通信技術によって得られる列車の位置情報などをもとに変電所電圧を最適に制御することで、いままで回生されずに捨てられていたエネルギーを電力として再生することができます。
環境問題や省エネに対する意識がますます高まるなか、大口の電力需要先である鉄道システムのさらなる省エネを実現する画期的な技術として、大きな注目を集めています。

列車回生電力融通技術
※ TIMS(Train Integrated Management System):車両情報統合管理装置

回生されずに捨てられていたエネルギーの最大80%を再生。

回生電力は架線を通じて、付近を走行する別の列車に供給されます。しかし架線には変電所から常に固定の電圧で電力が供給されており、また架線の電圧には上限が決められています。そのため列車が架線に回生電力を返そうとしても電圧の上限以上は受け付けられず、回生絞り込みが行われます。
回生絞り込みとは、回生ブレーキから空気ブレーキなどに切り替えることで、回生電力の発電をストップし、架線の電圧を上限以下に保つ制御のことです。さまざまな路線でのシミュレーションにより、この回生絞り込みによって、本来回生できるエネルギーのおよそ20%が活かされずに捨てられていることが分かりました。その原因は固定された変電所の電圧にあります。
「列車回生電力融通技術」は、どの列車が電力を回生することができ、どの列車が電力を必要としているかなど、路線上の全ての列車の位置情報や電力需給情報を収集し、変電所の電圧を最適に制御します。架線電圧が上限を超えないように、変電所からの電力と回生電力のバランスを制御することで、これまで利用できなかった回生エネルギーの最大80%を有効活用できるようになりました。「列車回生電力融通技術」が実用化されれば、鉄道システム全体が消費する電力量を最大5%削減することができ、自動車や航空機などに比べて、環境負荷の少ない鉄道をさらに省エネすることが可能です。

■従来の回生ブレーキ

電圧制御なし
拡大表示

■列車回生電力融通技術

電圧制御あり
拡大表示

開発NOTE

通信技術の発達で“夢の技術”が実用化まであと一歩。

先端技術総合研究所 
高橋 理
先端技術総合研究所
高橋 理

車両の軽量化や駆動機器の高性能化など、さまざまな取り組みによって列車の省エネが進んでいます。また、最近では、SiCを用いた車両駆動装置の導入によって、全速度領域での電力回生ブレーキの利用が可能になるなど、回生電力の量は増える傾向にあります。
しかし多くの回生電力を発生させても、それを活かせなければ省エネにはつながりません。いままでにも余った回生電力を電力貯蔵装置に溜めて、必要な時に活用するという手法はありましたが、充放電ロスがかなり大きく、回生電力活用という観点からは十分な解決策ではありませんでした。
今回の技術は捨てていた回生電力を最小限に抑え、回生できる電力は余すことなく使い切るという、いままでにないアプローチから生まれました。「車上と地上を通信でつなぎ、変電所の電圧を最適化する」というアイデアを初めて耳にしたのは、今から4〜5年前だと思います。研究テーマとしては非常に面白い、ぜひやってみたいと思いましたが、当時はまだ“夢の技術”といった印象でした。
しかし通信技術のここ数年の進歩は目覚ましく、“夢の技術”が実用化まであと一歩のところまで来ています。研究が加速したもうひとつの理由は、省エネや環境問題に対する社会ニーズの高まりで、研究の大きな後押しになっていると思います。
私は入社以来、列車の運行管理システムの開発に携わってきました。この研究を始めた頃は変電システムや回生ブレーキの知識は十分とは言えず、私自身にとっては新しい分野への挑戦でした。列車はどんな制約のなかで、どのように走り、いかにしてダイヤを守っているかなど、まず“列車の動きを知る”ことがこの技術には必要です。そういう意味では運行管理システムの開発経験が大いに役立っています。

アルゴリズム開発において“1秒の壁”を超えることが、最大の難問でした。

今回の開発における最大のポイントであり、なおかつ最も苦労したのが、変電所の電圧を制御するアルゴリズムの開発でした。一般的な都市鉄道では列車は主に時速80〜120km程度で走ります。しかも過密な線区では同時に20〜30本の列車が走っています。刻一刻と変化する状況に対応するには、複数ある変電所の電圧をきめ細かく制御する必要があり、今回の技術では制御周期を1秒と想定して開発を進めました。1秒毎に制御するためには、それに応じてアルゴリズムも高速化する必要がありますが、この1秒という壁を超えるのが、とても大変でした。
今回のアルゴリズムは数学的にいうと「非線型計画問題」という分野になるのですが、計算上の制約条件が複雑になるほど、どうしても計算に時間がかかります。ある条件下では0.5秒で計算できても、条件が複雑になっていくと10秒以上かかることもあります。どんな条件下でも常に1秒以内で計算を終えるために、どうすればアルゴリズムを高速化できるのか。一時は諦めかけたこともありましたが、そんな時ある出会いがありました。当社の米国における研究開発拠点であるMitsubishi Electric Research Laboratories(MERL)が、この分野に関する高度な技術を保有しているというのです。

Mitsubishi Electric 
Research Laboratories 
Daniel Nikovski
Mitsubishi Electric
Research Laboratories
Daniel Nikovski

彼らなら1秒の壁を乗り越えるチカラになってくれるのではないかと思い、すぐにコンタクトを取りました。日本と米国という距離があるなかで、ときには対面、ときにはテレビ会議で幾度となくディスカッションを重ね、試行錯誤の末に今回の最大の難問をクリアできたのです。

アルゴリズム開発に限らず、開発過程では多くの方々のチカラを結集しました。この技術は回生ブレーキのみならず、変電システムや情報通信など、トータルでシステムを設計する必要があったからです。当社は長年、鉄道システムの幅広い分野においてさまざまな技術を手がけてきました。その実績・ノウハウがあったからこそ、このシステムが実現できるのだと思っています。


■シミュレーション結果

一般家庭1350世帯分の消費電力量を削減
拡大表示

鉄道システムにとって、5%の省エネはインパクトのある数字です。

この技術によって、鉄道システム全体の電力を最大5%削減できます。この5%という数字は、すでに省エネの進んでいる鉄道システムにおいては、非常にインパクトのある数字です。ひとつのシステムで、これだけ省エネできるシステムはあまりないと思います。今回の技術を発表後、各方面からたくさんの反響をいただきました。列車のもつ情報と地上システムを組み合わせたという革新性だけでなく、省エネ効果の大きさを認めていただいたからではないでしょうか。
実用化に向けての今後の課題としては、既存の路線にいかにしてスムーズに導入を進めていくかです。変電システムや通信設備全体を一気に交換することは難しく、各設備の交換時期に合わせて一つ一つの設備をリプレースしていきながら、一定の省エネ効果が得られるよう、新たな技術の開発に現在取り組んでいます。さらに将来的には、まだまだ省エネできる種が眠っていると思っています。
現状では路線上に回生電力を供給する列車ばかりで、回生電力を必要とする列車がいないといった場合などには電力貯蔵装置の利用を想定していますが、例えば、列車の運転自体を制御できれば、そもそも電力も蓄電せずに活用できるのです。あくまでも理想であり、ゴールは遠いかもしれませんが、今後もとことん省エネを突き詰めていきたいと思っています。


このページを共有

研究開発・技術
カテゴリ内情報