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見えない未来の価値を創り出す

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
吉田 傑・江口 裕子

非連続で不確実な未来に備える

江口

私たちが取り組む未来価値洞察®とは、この先、社会や人々の価値観にどのような変化が起こりうるのか、その可能性を広く探索し、より良い未来の実現に向けて今すべきことを考えていくための活動です。近年、パンデミックやAIの急速な進展による電力不足など、想定外の出来事が社会にインパクトを与えましたが、10年後やその先の未来も、現在の延長線上にあるとは限らないと考えています。

吉田

たとえば、サブスクリプション型のサービスは、10年前だと一部の業界でしか見られませんでしたが、今では音楽や動画配信、車、家電、ファッションにまで広がっています。このように、今は目立たない些細な変化や予想外の出来事でも、10年後、20年後には社会全体を大きく変えるかもしれません。そのような起こりうる可能性のある未来を洞察し、それを起点に社内の事業企画や研究開発を推進することが未来価値洞察®のミッションです。

江口

未来価値洞察®の活動を始めたおよそ10年前、製品開発やデザインの現場には「未来の社会や生活の変化をどう捉えるべきか?」という課題がありました。従来の開発プロセスでは、現在の市場や技術をベースに次の製品を考えるのが一般的でしたが、社会が目まぐるしく変わるなかで、それだけでは未来の変化に備えきれないのではないか、という危機感があったのです。

吉田

そうした状況下で、今の技術やトレンドなど短期的な思考の枠を超え、俯瞰的かつ長期的な思考で「起こりうる未来の可能性は何か?」を考えるために生まれたのが、未来価値洞察年表®です。思考を未来にジャンプさせる未来シナリオ群と、それらをまとめた年表で構成されています。

小さな変化の兆しから未来の可能性を探る

江口

未来価値洞察年表®のコアである未来シナリオの制作現場では、現在の世の中でみられる小さな変化の兆しを大切にしています。私たちは、国内外のニュース、企業の新しい取り組み、技術革新、学術研究、社会の動向など、さまざまな情報源から兆しを収集しています。

吉田

たとえば「ニュージーランドで山が人間と同じ法的権利を与えられた」というニュース。他の先端の情報と組み合わせ思考をジャンプさせると、山が自ら意思表示し人間による開発に意見したり、契約を交わしたり、という未来が描けます。そうすると、人間視点の環境保護を超えて、都市開発やインフラ設計の考え方が大きく変わる可能性が見えてきます。

江口

このように、小さな変化の兆しは一つだけでは大きな影響を与えませんが、他の変化や情報と掛け合わせることで、新しい価値観や社会変化への示唆を生み出すことができます。シェアリングエコノミーが広がった結果、物を所有することよりも体験を重視する社会が生まれました。こうした流れを早期に捉え、シナリオ化しています。

吉田

当初は家電や住まいなどの領域を対象に数十枚ほどだった未来シナリオは、毎年の更新で新陳代謝しながら、数百枚にまで発展し、広く社会や環境、産業や生活者をカバーするようになりました。また、カバーする年代も最長2030年代だったところが2080年代にまで拡大しました。それにより、幅広い分野や年代を想定する活動に対し、視野拡張や発想刺激の役割を果たせるようになったと考えています。

未来シナリオを組み合わせ、大局的に社会と生活者の変化の可能性を捉える

江口
未来シナリオは、それぞれ個別の事象として捉えるだけでなく、少し引いて未来シナリオ群として見てみると、大きな流れや共通点が見えてきます。そうした俯瞰的な視点を加えて未来シナリオをまとめたのが未来価値洞察年表®です。未来価値洞察年表®で社会や価値観の変化の流れを大局的に提示し、シナリオで起こりうる未来の一場面を描くことで、様々な角度から未来を考えられるようにしています。
吉田
未来価値洞察年表®と未来シナリオを使って社内の技術者や企画担当者と議論することで、現在の延長線ではない新しいアイデアが生まれる瞬間が増えました。多様な未来の可能性を提示し、「こういう未来を作りたい」といった議論を支えることが、未来価値洞察年表®の大きな意義です。

デザイナーだからできる「未来の可視化」がある

江口
未来価値洞察®を行う際は、デザイナーの視点がとても役に立ちます。未来を考えるときは既存の枠にとらわれず、まだ存在しない価値や可能性を発想する力が欠かせません。
吉田
デザイナーは異なる情報をつなげて新しい意味を見出したり、抽象的なアイデアを具体的な形に落とし込んだりするのが得意です。テクノロジーの進化や社会の変化など国内外の様々な情報を解釈したり連鎖させるなどして、まだ見ぬ未来の可能性を描きます。その際「こういう未来が実現すれば、人々の暮らしはどう変わるのか?」という人視点で想像する力も役に立ちます。
江口
「デザインの力で新しい価値を生み出し、社会全体に影響を与えられる」という視点を持っているからこそ、デザイナーは未来価値洞察®の中心的な役割を果たせるのだと思います。ウェブサイトでも情報を発信し、未来の価値を考えるきっかけを創出しています。

あくなき想像力で、未来を自ら創っていく楽しさ

江口
未来は、ただ待っているだけでやってくるものではなく、自ら創り出していくものです。未来価値洞察年表®と未来シナリオの制作を通じて実感するのは、今の小さな選択や行動が、数十年後の社会を形作るということです。今どんな視点を持ち、どのような価値を提案するかを追求したいと考えています。
吉田
未来を考えるとき、単に技術の進化を追うのではなく、人々の価値観や生活の変化を捉えることを意識しています。現在の延長線上だけでなく、非連続・不確実な変化も含めて広く未来の社会を洞察することが未来を創る第一歩になるはずです。
江口
未来を想像することは、とてもワクワクすることです。デザインの力で、まだ見ぬ未来の可能性を描き、社会をより良い方向に導く。その挑戦を続けることで、私たちは本当の意味で未来を創ることができるのだと思います。

「未来価値洞察」「未来価値洞察年表」は三菱電機株式会社の登録商標です。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

江口 裕子

2017年入社
キャリア採用にて入社。広くユーザー評価やユーザーリサーチ業務に携わり、未来価値洞察年表®をはじめとした未来価値洞察®の基盤整備やノウハウ継承に取り組む。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

吉田 傑

2019年入社
入社後、エコキュートの商品企画や高齢者向け見守りアプリケーションの開発に携わる。未来価値洞察年表®を活用した社内ワークショップの運営など、未来価値洞察®の社内普及に取り組む。