コラム
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2002年 7月分 vol. 1
宇宙に行かなきゃわからないコト
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

── 宇宙にぽっかり浮かぶ地球。この写真を最初に撮ったのは誰でしょう? 月面着陸で有名なアポロ11号のアームストロングでもオルドリンでもない。ちょっとしたエピソードがあるのです。

写真 人類が初めて月に向かったのは、1968年のアポロ8号。3人の乗組員は地球から離れるにつれて刻一刻小さくなる「青いビー玉」のような地球に見入ったと言う。さらに月の周りの軌道を宇宙船で回っているとき、乗組員の一人ウィリアム・アンダースは驚きの声をあげた。いったん月の影で見えなくなっていた地球が、月の地平線から昇ってくる。Earthrise(地球の出)だ! 生命をよせつけない荒涼とした月面と漆黒の宇宙というモノトーンの世界に現れた、色彩のある星。アンダースは大急ぎで写真をとった。最初はモノクロで。すぐにカラーフィルムに入れ替えて。その日はXmasイブ。なんて大きなプレゼントだろう。

 宇宙科学研究所の的川泰宣教授はある国際会議でアンダースに出会い、地球を見たときの印象をたずねたそうだ。「彼は小さい頃から泣き虫だったらしくてね。泣くときは最初に目頭が熱くなって次に顔が真っ赤になって、というように順番があった。でも月から地球を見たときは順番なんかなくなって、全部いっぺんにワッときたと言ってたよ。」

 アポロ8号の飛行から30年以上たち、あらゆる映像にみなれた宇宙飛行士の中には「地球は予想通り美しかった」と語る人もいて、地球は驚きの対象ではなくなりつつある。もちろんスペースシャトルから見る地球と、月から見る地球の違いは大きいだろうけど。

 実は宇宙飛行士が一様に「あれだけは行かないとわからない」と口をそろえるものがある。それは「漆黒の闇」。絵の具の「黒」ではなく、あえて表現するなら「すす」。何もかも飲み込んでしまいそうな無限の闇があるからこそ、地球の色彩が浮かび上がると。

  光にあふれるくらしになれた私たちが一番衝撃を受けるのは、宇宙の圧倒的な暗闇なのかもしれない。