コラム
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2002年 9月分 vol. 3
月夜の「虹」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


写真 「月の光で虹が見えるんです」。カーラジオから何気なく聞こえてきたフレーズに驚いた。

 満月の光だけで写真をとり続けてきた、写真家・石川賢治さんの言葉だった。インディゴブルーの月夜に、まろやかな水辺や夜に咲く一輪の花がほのかに白く浮かび上がる彼の写真は、優しくて神秘的でなまめかしくて、昼とはまったく別の世界を見せてくれる。日光浴に対して「月光浴」という言葉も彼の写真から一般的になった気がする。

 満月の光を追いかけて世界中で写真を撮ってきた石川さんは、ハワイで現地の人が「ムーンボウ」と呼ぶ月夜の虹の話しを聞いていた。ある時、マウイ島のハレアカラ山(アポロの訓練をした場所!)に登った石川さんはたまたまムーンボウにめぐり合い、写真をとることも忘れしばし見とれていたそうだ。10分ほどで消えていったその虹を見られたことに「ありがたい」気持ちになった、と石川さんは語っていた。

 その話を聞いてから「ムーンボウ」の写真が見たくてたまらず、個展に行き写真集を探し、CD-ROM「月光浴」の中についに発見。白くて大きな虹が、確かに弧を描いている。夢か幻想を見ているようなふんわりした虹。キャプションによると端のほうは紫色に見えていたらしい。月光の明るさは太陽光の465000分の1。それほど弱い光が見せてくれる一瞬の虹。現地の人でもなかなか見ることができないそうだ。

写真 さて、月に立って地球の光はどんなものだろう。地球の直径は月の約4倍だから面積は約16倍。その明るさは地球で見る月の約60倍~80倍にもなるらしい。でも月には大気がないから虹は残念ながら見られない。月で見る地球は自分が移動しない限り、昇ることも沈むこともなくずっと同じ場所に輝いている。とっても不思議な世界。ただし満ち欠けはする。三日地球から半地球、そして満地球・・。ゆるやかに渦巻く雲をまといながら自転する青い地球の姿は、それはそれは美しいそう。

 アポロ計画で宇宙飛行士たちが撮影した写真3万2千点。その中から厳選された129点の写真を掲載する写真集「フル・ムーン」では、荒涼とした月面とそこで見る地球の圧倒的な存在感を味わえる。「月光浴」と対極にある、乾いたクリアーな世界の静寂感。「フル・ムーン」は2002年5月に小さくてお手ごろ価格の新装版が出て、大きくて高い写真集を無理して買っていた私としてはとても悔しいのだけれど、オススメです。



石川賢治さんホームページ
http://fullmoonlight.net/
2002年10月14日まで東京・お台場のヴィーナスフォートで「石川賢治・月光写真の世界」開催


「フル・ムーン」新装版
マイケル・ライト編著 新潮社 2400円(税別)