コラム
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2003年 1月分 vol. 7
南極越冬隊≒宇宙?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙ステーションにも、貨物船プログレスが時々新鮮な野菜や果物を運んでくる。(提供:NASA) NASDA宇宙医学研究開発室の村井正さんは、15年以上前に南極越冬隊に医師として参加していた。南極と宇宙の共通点をたずねたら「情報が遮断されること」と答えてくれた。

 「例えばね。日ごろ自分では気づかないけど、私たちは猛烈な情報の中に暮らしているわけ。家ではテレビやラジオ、新聞があって、電車には中吊り広告がある。それが南極に行くと突然なくなって、社会から取り残されたような気分になったんだよね。」

 村井さんが越冬隊の任期を終えようとしていたころ、送られてきたFAXに「松田聖子 結婚!」というニュースがあって、越冬隊は騒然とした。「相手は郷ひろみなのか?」まさか神田正輝だなんて知ろうはずもない。日本にいるときは芸能ニュースなんて気にもしないくせに、南極にいると日本中が沸き立っているであろうニュースを知らないことが妙に気になる。「浦島太郎気分にさせないためにも、仕事に関係ないニュースも送る必要がある」村井さんが南極での経験から得た教訓だ。

 宇宙飛行士にどんなニュースをどう伝えるか。芸能ネタは笑ってすませられるけど、深刻な問題になったのは、2001年9月の同時多発テロの時。衝撃的な映像を送っていいものか、宇宙飛行士がダメージを受けるのでは・・・NASAでは様々な議論があったはず。結局アマチュア無線や家族とのIPフォンで宇宙飛行士は断片的にニュースを得ていることを考慮し、NASAからは制限せずにニュースを伝えることにした。その分心理サポートは手厚くして。物理的に離れた場所にいるけれど決して情報は閉ざされていない、という状況にして少なくとも危機を乗り切った。

 ところで、南極と宇宙を食事で比べてみると? 南極越冬隊の食事は「ものすごく豪華」らしい。調理の専門家が二人いて材料もたっぷり。お酒も飲み放題。一方でどうしても食べられないものもある。たとえば新鮮な野菜。「栄養的には満たされていても、キャベツが半年間食えないと思うと、生のキャベツが食いたくてたまらなくなる。次の越冬隊がキャベツや玉ねぎを運んでくると、みんなむさぼり食ってたよ。」宇宙や南極では、情報であれ野菜であれ、「新鮮なもの」「得られないもの」への欠落感が強~くなるってことでしょうか。