コラム
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2003年 3月分 vol. 1
映画「コンタクト」を現実に生きる女性
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

建設中の「アレン・テレスコープアレイ」。直径6mのアンテナを350並べて2005年に観測を始める。(提供:SETI Institute) ゴメンナサイ。2月のコラム「宇宙人に出した『乾杯』メッセージ」を訂正します。地球から宇宙に向けてメッセージを出したのは過去に2回だけと書いたところ「他にもある!」と読者からご指摘が。NASDAが毎年夏に行う「コズミックカレッジ宇宙体験教室」で、子供たちが考えたメッセージを長野県臼田町の直径64mパラボラアンテナで数回送ったことがあったのだ。例えば1997年は11×11マスの方眼紙に描いた「笑顔」「だんごとお茶」の絵をおとめ座のスピカに送信。楽しいね。私だったらどんなメッセージを送ろうかな・・・。

 宇宙人にメッセージを送ったり、まだ見ぬ相手からのメッセージを受信しようとアンテナを傾けたりしながら、すでに宇宙人との対話が始まっている。こんな宇宙との対話をずっと続ける一人の女性がいる。カール・セーガンの映画「コンタクト」の主人公、ジョディ・フォスターが演じた執念の電波天文学者エリー・アロウェイのモデルと誰もが信じる実在の人物。SETIを専門に行う世界最大の民間組織SETI研究所のジル・ターターだ。(日経サイエンス1月号の記事によれば、ターターは「アロウェイのモデルはセーガン自身」と言っているらしいが)

 1993年にNASAがSETI計画をわずか1年で打ち切った後、彼女は「フェニックス計画」で世界の電波望遠鏡を使い、不死鳥のように宇宙からの声に耳を済ませ続けてきた。セーガンは映画「コンタクト」の完成を待たずに亡くなったが、ターターは乳がんを乗り越え今も現役でSETIを続け、子供たちの教育にも力を注いでいる。

 そして今、ターターは新しい観測計画に夢中だ。これまでSETI専用の電波望遠鏡はなかった。他の天文研究と同様に電波望遠鏡の割り当て時間をもらって観測してきたが、24時間、週に7日間SETIのために使える望遠鏡をもちたいと願い続けてきた。

 そこに登場したのがマイクロソフト社の創立者の一人ポール・アレン。1150万ドルをSETIのために提供。アメリカの金持ちはスゴイ。彼の名を冠した「アレン・テレスコープ・アレイ」プロジェクトは、サンフランシスコ北部約500kmのカリフォルニア大学ハットリーク観測所に直径6mのパラボラアンテナを350基並べようと言う計画だ。観測開始は2005年。フェニックス計画では約1000個の星を調査してきたが、この計画では10万個から100万個の星が調べられるという。

 映画「コンタクト」でエリーが繰り返し言うセリフ。「こんなに広い宇宙に私たちだけじゃ空間がもったいない」。隣人が見つかる日は案外近いのかもしれない。



注:SETIはSearch for Extra Terrestrial Intelligenceの略で地球外知的生命探査。宇宙人との交信には電波が一番効果的との考えから、宇宙人のメッセージを電波望遠鏡で受信しようとしている。

SETI研究所
http://www.seti.org/