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2003年 12月分 vol. 1
宇宙に戻ろう。NASAの取り組み
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ジェット機の無重力飛行で耐熱タイルの修復作業を行う若田光一飛行士。タイルの穴に「歯みがきペースト」状の充填材を注入。野口飛行士がこの作業を宇宙で行う予定。(NASA)  2003年はキツかった。スペースシャトル・コロンビア号の事故、H-llAロケット打ち上げ失敗・・・次から次へとハードルが表れる終わりなきハードル走のようだった。しかし来年はきっと「復活の年」。NASA宇宙飛行士オフィス代表として、スペースシャトルの飛行再開に取り組んでいる若田光一飛行士が11月27日、JAXAで記者会見を行い、現況を説明した。

 現在、若田飛行士たちのチームが検討・開発しているのは大きく分けて二つ。一つはシャトルの耐熱材(耐熱タイルや、コロンビア号の事故原因になったRCC《強化カーボン複合材》パネル等シャトルを高熱から保護するもの)が壊れていないかを宇宙でどう検査するか。もう一つはもし耐熱材が壊れていることが見つかった場合、どう修復するか。

 まず検査について。耐熱材はシャトルのお腹側全体や翼の縁等にあって、中にはシャトルのロボットアームでは届かない場所がある。そこでアームの先に長さ15m、直径30cmのブームをつけ、先端の2つのレーザーとテレビカメラで検査を行う。特に細かい検査が必要とされるのは翼の前縁部にあるRCCパネル。片側に22枚ずつあるうち、5~13番が最も高温にさらされるため、6~7ミリの傷まで調べることが要求される。もしもブームが故障したりした場合には、宇宙飛行士が船外活動でくまなく検査することになる。

 そして、もし検査で傷がみつかったら。修復作業は宇宙飛行士が行うのだが、問題はどうやって破損場所に近づくか。検討の末に、斬新な方法が考えられた。シャトルのロボットアームが国際宇宙ステーション(ISS)をつかみ、4時間かけてシャトルが反転、ISSからシャトルのお腹側が見える状態にする。そしてISSのロボットアームに乗った宇宙飛行士が現場に近づく。これまで見たことのない光景になりそうだ。

 修復作業のうち、耐熱タイルは「アブレーター」という充填材を壊れた箇所に注入し、表面をなめらかにする方法がほぼ固まっている。2004年秋の野口聡一飛行士の飛行では、予め壊しておいた耐熱タイルをシャトルの貨物室に積み、野口飛行士が船外活動で修理。地上に持ち帰って高温に耐えるか等を検査する予定だ。一方、RCCパネルの修復は傷の大きさによって毛布のようにくるんだり、中に詰め物を入れたり等4つの方法が検討されている。

 NASAでロボットアーム操作の第一人者と呼ばれ、シャトル飛行再開の重要な任務を負う若田飛行士。感じるのは「アメリカの底力」だと言う。たとえばRCCパネルの検討には、関係する研究所からカーボン材料のスペシャリストがぞくぞく集まり、総力戦で挑む。日本も復活に向けて、「底力」を見せてほしい。