コラム
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2004年 1月分 vol. 3
野口飛行士、船外活動訓練の日常。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


VR訓練中の野口飛行士(手前)と相棒のスコット・ロビンソン飛行士。ヘッドディスプレイの中にISSでの作業イメージが映し出されている。(NASA)  ブッシュ大統領が「月に行って火星にも行くぞ!」と発表した次の日に、野口聡一宇宙飛行士が帰国。1月16日(金)、東京で記者会見が開かれた。月に行くにも火星に行くにも、まずシャトルが再び飛ぶという「はじめの一歩」がないと始まらない。その再開第一号のシャトルに乗り、3回行う船外活動の主担当という大役を担っている野口さん。帰国されるたびに引き締まったイイ顔になっていきますねー。

 野口飛行士の単独インタビューの様子は、DSPACE2月第1週のムービーで公開されるので楽しみにして頂くとして、今回はちょっとしたこぼれ話を。記者会見では配られた映像の中には、最近の野口さんの訓練映像があった。例えば
1月7日 VR(ヴァーチャルリアリティー)による船外活動訓練
1月8日 VRによる船外活動訓練。(特にSAFER(セイファー))
1月8日 POGO(精密エアベアリング)設備での訓練・・・などなど。

クレーンで吊り下げられた状態で、手すりをつたう。二次元方向の無重力の感覚を体験できる。POGO(ポゴ)と呼ばれる設備。(NASA)  連日、VR訓練があった様子。船外活動の訓練は、ジョンソン宇宙センターにある巨大なプール・NBL(プールの底に国際宇宙ステーション(ISS)の模型が沈めてある)に宇宙飛行士がもぐり実際の作業を「体で覚える」のがメイン。しかしいくらNBLが巨大でもISSの全ての模型を沈められない。また、飛行士の命綱が外れて宇宙空間に放り出された時に、宇宙服の背中に背負っているガスジェットを噴射してもどってくる装置「SAFER(セイファー)」もプールの中で実際にやってみることはできない。そんな時、VR装置を使ってイメージトレーニングを積む。(上の写真)

 SAFERは非常事に使うものだけれど、今回の野口さんのフライトでは大事な役割を果たすかもしれない。シャトル再飛行では、耐熱材が壊れていないかを宇宙で検査することになっている。その一つにロボットアームを使った検査が検討されている。(2003年12月vol.1のコラムを見てね)。万が一ロボットアームの調子が悪かったりして、使えなかったら? その場合には、野口さんたちが船外活動でシャトルの裏側のタイルをチェックする。シャトルの裏側には命綱を引っ掛ける場所もなければ手すりもない。SAFERで飛び回って検査することもありうる、というわけ。

 宇宙で行う作業の内容は現在も検討され、どんどん変更されて行くので、そのたびに柔軟に対応していかなければならず、大変そう。しかも誰もやったことのない仕事ばかり。でも野口さんはシャトルに人一倍強い思い入れがある。高校生だった野口さんが宇宙飛行士を目指すきっかけになったのはスペースシャトル初打ち上げ、奇しくもコロンビア号だったのだ。「小さい頃から乗り物が好きだった。でもシャトルを見て、宇宙で仕事をする時代が来たと実感した。だからシャトル復活に協力できることにやりがいを感じています」と語る野口さん。宇宙での楽しみは?「地球を見ることと折り紙遊び」だそうです。