コラム
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2004年 5月分 vol. 2
「宇宙をめざす先生」。夏から訓練開始
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


次世代の宇宙飛行士候補者達。前列右から2人目Ricky Arnold,後列右から3人目Dottie Metcalf-Lindenburger、その左のJoe Acabaが宇宙をめざす先生たち。(NASA)  2004年5月6日(現地時間)、NASAは3人の教師を含む11名の宇宙飛行士候補者を発表した。ブッシュ米大統領が、1月に月や火星を目指す新宇宙構想を発表してから選ばれた初めての宇宙飛行士候補者。NASAのスポークスマンは彼らを「新しい世代の宇宙飛行士」と呼ぶ。夏から始まる1年以上の訓練を経て、彼らは正式な宇宙飛行士になる。

 2003年7月1日に締め切られた飛行士募集には約1, 100名もの教師が志願した。選ばれた3名の「Educator Astronauts」は科学や数学が専門なのは共通だが、それぞれユニークなキャラクターの持ち主。

 Joe Acaba(36)は宇宙飛行士候補者に選ばれたと聞いて、長かった髪をばっさり切った。フロリダ州で中学校の教師になって5年目。その前はPeace Corp(日本の青年海外協力隊にあたる米国の団体)に参加しドミニカ共和国で環境教育を行った。その経験が地質学者だった彼を「教育」に目覚めさせたと言う。「私の両親は教育の大切さをいつも幼い私に説いていました」。アカバの両親はプエルトリコ生まれ。父親は10歳の時、母親は18歳の時に米国にわたり、一生懸命働いてきた。今でも父は彼のヒーロー。アカバは宇宙飛行士としてマイノリティの子ども達にも宇宙から働きかけたいと考えている。

 Richard Arnold(40)はメリーランド州出身だが、彼の子ども達は米国に住んだことがない。彼は最近までブカレスト(ルーマニア)のアメリカンインターナショナルスクールで教師をしていたが、モロッコやサウジアラビアでも教えている。異なる国で異なる文化に接することを楽しんできた。「ウェブで『Astronaut training』とサーチすれば、マレーシアや日本、韓国やヨーロッパのページが出てくる。宇宙飛行はインターナショナルな関心事」と語る彼は異文化に接してきた経験が、宇宙で生かせるのを楽しみにしている。

 そしてバンクーバーのハイスクールで教師をしているDottie Metcalf-Lindenburger(29)は生徒の1人に「宇宙ではどうやってトイレに入るの?」と聞かれた答えを探してNASAのウェブサイトを探しているうちに、募集を知った。彼女は熱心なマラソンランナーでもあり、選ばれた連絡を受けた一週間後にも夫とともにボストンマラソンに出場、完走している。

 ところで、NASAは過去にも教師を宇宙に送ろうとしたことがある。1986年1月のチャレンジャー号。高校教師のクリスタ・マコーリフさんが宇宙授業を行う予定だったが、残念ながら事故で亡くなった。マコーリフさんはこの宇宙授業ミッションのためだけに選ばれていたが、マコーリフさんのバックアップを勤めたバーバラ・モーガンさんはその後宇宙飛行士訓練コースに入り、正式にNASAのミッションスペシャリストになった。2006年に宇宙飛行を行う予定だ。

 NASAにはまだ「飛んでいない宇宙飛行士」が大勢いる。今回選ばれた候補者たちが実際に宇宙に行くのはかなり先だろう。でも今まで長い間「自然科学系・技術系の専門家か軍人、または大富豪」に限られていた宇宙の門戸が教師にも開かれた、という点ではとっても嬉しいニュースですね。


NASA教育者宇宙飛行士発表のページ
http://www.nasa.gov/vision/space/features/F_Educator_Astronauts.html