コラム
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2004年 6月分 vol.1
宇宙の運命を握る「暗黒の力」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


チャンドラがX線で観測した銀河団の一つに「すばる」望遠鏡のデータをあわせたもの。(Credit: Optical: NAOJ/Subaru/H. Ebeling; X-Ray: NASA/CXC/IoA/S.Allen et al)  この宇宙は永遠に広がっていくのか、それとも閉じていくのか。そのカギを握るのが「ダークエネルギー」だ。宇宙の全エネルギーの約4分の3を占めると考えられているのに、その正体はよくわからない。X線天文衛星「チャンドラ」で銀河団を観測した結果、宇宙はダークエネルギーによって加速度的に膨張中だ、とNASAは5月半ばに発表した。何十億年か先、夜空には星が見えなくなってしまうかもしれない。

 ダークエネルギーという言葉が使われだしたのは今から6年前のこと。二つの別々のチームが超新星を観測したところ、宇宙の膨張速度は「加速している」という驚くべき観測結果を得た。それまで宇宙膨張の速度は「減速している」と考えられていたのだ。加速しているということは、物質の重力に反して膨張させようとする謎のエネルギーがあるはずだ。正体のわからないこのエネルギーは「ダークエネルギー」と名づけられた。

ビッグバンから膨張を続けてきた宇宙の未来は、膨張速度が「加速」か「減速」かで大きく変わる。現在は真ん中の線をたどると考えられている。(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)  宇宙の膨張が「加速」するか「減速」するかでナゼそれほど大騒ぎするのか。それは宇宙の運命を大きく変えるからだ。減速すれば、銀河と銀河の間の距離はだんだん小さくなっていき最後にはぶつかり崩壊する(Big Crunch右図の白線)。加速を続ければ、銀河と銀河の間はどんどん離れていきスカスカの宇宙になる(赤線)。さらに超過速度的に進めば星や物体さえも引き裂かれてしまう(Big Rip青線)。

 イギリス・ケンブリッジの天文研究所のスティーブ・アレン達はNASAのX線天文衛星チャンドラを使って、10~80億光年の距離にある26の銀河団が遠ざかるスピードやX線が出す高温のガスを調べた。その結果、宇宙の加速度的な膨張は約60億年前に始まり、そのスピードは一定で「Big Rip」が起こるほどではないことがわかった。わたし達が原子レベルで引き裂かれることはなさそうだ。(その頃は勿論生きてないけど)

 さらに今回の観測で宇宙の75%はダークエネルギーが占め、21%がダークマター(暗黒物質)、星や銀河はわずか4%に過ぎないこともわかった。宇宙のほとんどが「見えない物質」で占められているなんて。わたし達は宇宙のほんの一部しか見ていなかったんですね。

エックス線天文衛星「チャンドラ」ダークエネルギーのページ
(ダークエネルギーで銀河が広がっていくアニメーションは必見)
http://chandra.harvard.edu/photo/2004/darkenergy/