コラム
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2004年 6月分 vol.2
露から米国へ。宇宙も「資格」の時代。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ロシアのオーラン宇宙服を着る訓練を行う山崎直子宇宙飛行士。(JAXA)  「最初はタクシーで宇宙に連れて行ってもらって、仕事をするのが自分の役割だと思っていた。でも車のことも知らないといけなくなった。」JAXA宇宙飛行士古川聡さんは、6月7日、文部科学省で行われた記者会見で語った。

 古川聡さん、星出彰彦さん、山崎(旧姓角野)直子さんは1999年2月、国際宇宙ステーション(ISS)完成後に長期滞在し実験等を行う宇宙飛行士候補者として選ばれた。それまでの日本人飛行士は選抜後すぐにNASAで訓練に入ったが、日本を拠点に基礎訓練が行われた。

 ところが、その後ISSを巡る状況は大きく変わった。2003年2月のコロンビア号事故後、スペースシャトルは飛んでいない。替わりにロシアのソユーズ宇宙船が飛行士をISSに運んでいる。ソユーズは緊急帰還機でもありISSに一機が常時ドッキングしている。

 一方、NASAには約50人の宇宙飛行士が待機している。さらにヨーロッパやカナダの飛行士もいる。数少ない「宇宙への切符」を手にするには、やはり「技能」が物を言う。その一つがISSでの役割が大きくなったソユーズ宇宙船の「フライトエンジニア」の資格だ。ソユーズ宇宙船の運用できる能力をもつことが、ISS搭乗への有利な条件になる。

ロシア宇宙服は後ろをパカッとあけて中に入り、一人で着ることができる。右は星出飛行士。(JAXA)  そこで古川、星出、山崎飛行士は平成15年7月~16年5月末までロシアで訓練を実施、フライトエンジニアの資格を得た。そして次はアメリカへ。6月からNASAで約1年半の訓練を受け「ミッションスペシャリスト(MS)」の資格をとる。この資格を得ることでスペースシャトルのシステムに精通し、ISS建設ミッションにも参加できるようになる。

 ISSの日本実験棟「きぼう」や重力発生装置搭載モジュールなど、日本の開発品を運ぶシャトルミッションは5回予定されている。それらを「有能な日本の飛行士で」とJAXAは売り込むつもりだ。さらに「きぼう」が宇宙に運ばれたら、日本人飛行士にISSに長期滞在しながらじっくり検証試験を行ってもらいたい。現在、日本には土井、若田、野口の3人のMSがいるが、新たに3名にMSの資格をとらせ、6人体制でISSの組み立てに備える。

 ところで会見中、角野直子さんは仕事上の名前を夫の「山崎」姓に変えることを発表した。MS訓練のため家族そろって渡米することがきっかけになったと言う。夫の大地さんは民間会社を退職、1歳の優希ちゃんも一緒だ。実はロシアの訓練にも優希ちゃんを連れて行くことを考えた直子さんだが、環境を考えて断念。留守の間は父子家庭だった。「仕事優先で家族を振り回してしまった。訓練を続けてこれたのも家族のおかげと感謝しています」と直子さん。「飛行士に選ばれた頃と状況は変わったが、ISS建設前から関わることができるのはいいチャンス。挑戦のしがいがある。」きっぱり話す彼女の表情は、とても美しく輝いていた。