コラム
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2004年 8月分 vol.3
地球が回っているってホント?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 いきなりクイズです。
 「地球・太陽・月」の最も基本的な問題にアナタは答えられますか?
1.
地球が太陽の周りを回っているのですか。それとも太陽が地球の周りをまわっているのですか?
2.
人工衛星と同じように地球の周りを回っている天体はどれですか? 
一つ選んで下さい。
・太陽  ・月  ・火星 ・わからない
3.
月の形が毎日変わるのはどうしてですか?
・月が地球の影に入るから。 ・地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから。
・いろいろな形の月があるから。 ・わからない


見慣れたこの写真だが、小学校の理科では「地球が丸い」こともキチンと教えていない。環境問題を扱う授業で、何の説明もなく丸い地球の写真が現れて「かけがえのなさ」を訴えられても、子ども達は混乱するばかり。(NASA)  DSPACEのコラムを読んで下さっている皆さんには簡単すぎましたよね? この問題は、国立天文台広報普及室の縣秀彦室長が、6都道府県、9つの小学校4~6年生計720名に行ったアンケートを参考にさせて頂いたもの。アンケートの結果は縣さんが「これほどとは思っていなかった」と愕然とするほど正解率が悪かった。

 まず問1。「太陽が地球の周りを回っている」と答えた小学生が42%。約400年前のガリレオ・ガリレイの時代、つまり地球を中心に天が回っている「天動説」が主流だった頃にさかのぼってしまったようだ。でも子ども達がこう答えるのも無理はない。小学校4年生の教科書では、まっ平らな地球の地平線が描かれ、太陽が動いていくような図が描かれている。地球が丸いことも、自転していることも、地球が太陽の周りを回っていることも教えないのだ。それがどんな理解につながるかと言うと、問の2。

 正解の月を選んだ児童は39%。太陽が24%、火星が27%もいた。1で天動説を選んだ生徒のほとんどが太陽か月を選んでいる。そして極めつけは問3。正解の「地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから」を選んだ児童は47%。月の満ち欠けを学校で教えないから仕方がないとも言える。しかし「いろいろな月があるから」と答えた生徒が2%いた。JAXAウェブサイト「月探査情報ステーション」にも「(7つの月のうち)どの月に探査機を飛ばすの?」といった質問が寄せられるという。

 なぜこんなことが? 今の小学校では「観察や実験できないことは教えない」という絶対的な基準がある。だから子ども達はテレビや図鑑などで「丸い地球」や、太陽を中心に惑星が回るイラストを目にするのに、小学校ではどちらも教えていない。「子ども達は矛盾を起こしているんです。」と縣さんは言う。外から得る情報と日常体験、学校で教わる内容がきちんとつながらない。

 これは子ども達だけの話しではないのです。大人を対象にしたあるアンケートでも同様の結果が得られている。科学技術力は世界第二位というのに、大人の一般的な科学的知識が先進国で最下位というのはちと恥ずかしい。中高一貫校で理科教師を長く勤めていた縣さんは、実験主体に子供たちの理解を深めてきた経験から(生徒は喜んだけど保護者からはもっと受験に役立つ勉強をさせてほしいとクレームがきたと苦笑いされたが)、教え方にももっと工夫が必要だと、小学校と共同で「月の満ち欠け」などの指導法の研究を進めている。