コラム
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2004年 8月分 vol.4
史上最大の「宇宙地図」作り
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 20世紀後半から望遠鏡はどんどん大型化し、宇宙には観測衛星が飛び、宇宙の果てに近い遠くの天体や、ブラックホールなどを続々と発見している。だけどガイドブックで言えば、それらは「観光スポット」のようなもの。どんな町にだって、田んぼとか、住宅街とかフツーの目立たない場所があるはず。

 例えば太陽の隣の星、ケンタウルス座α星までは4.2光年。光速で4年かかる。私達の銀河系とアンドロメダ銀河とは230万光年離れている。私達の銀河系は直径約10万光年だから、差し渡しの20倍以上。でもこれは近いほうだ。銀河を満遍なくばらまけば、銀河間の距離は銀河の直径の数百倍は離れているという。実際の宇宙はスカスカなのだ。

 この宇宙を、天体のあるところもないところも満遍なく調べなければ、実際の宇宙を理解したとは言えない。そうした宇宙の地図作りは、実は1980年代から始まっている。ハーバード大学のマーガレット・ゲラー達は、地球から約5億光年の範囲にある銀河を調べ宇宙地図を作った。すると銀河はまるで「台所の流しの泡」のように分布していた。泡の表面に銀河があり、泡の中は何もないように見える。さらに観測を続けると、「万里の長城」のように、銀河が何億光年にもわたって壁のように密集しているところもあった。

 しかし、それはこの地域に特異な構造かもしれない。それ以来、さらに広い領域での地図作りが様々なグループによって進められてきた。現在進行中の史上最大の宇宙地図作りが日米独共同のスローンデジタルスカイサーベイ(SDSS:Sloan Digital Sky Survey)計画。2006年に25億光年彼方までの100万個の銀河による三次元地図を完成させる予定。米国ニューメキシコ州の標高2788mにあるアパッチポイント天文台で観測を行っている。

100万個の銀河で宇宙地図を作ろうというスローンデジタルスカイサーベイ計画の途中段階の地図(左)。これは二次元で表現されているが、実際は25億光年の球の四分の一の領域の立体地図ができる。(提供:Sloan Digital Sky Survey)

 これまでの観測データから作られた地図が上の写真。銀河系をたくさん撮影した右のような写真から、一つ一つの銀河の距離を調べて、地図に落としていくと左のような「宇宙地図」ができる。扇形の中心が私達のいる場所。地図を見ると宇宙は銀河が作る「泡」だらけだし、「壁」のような場所もあちこちにあることがわかる。

 なぜ銀河はこんなふうに広がっているのか? 実は私達の目に見えない「暗黒物質」が大きな鍵を握っているらしい。宇宙には星や銀河のような「見える物質」は4%しかなく「暗黒物質」は23%。(残りは暗黒エネルギー)。宇宙地図は暗黒物質について貴重な情報をもたらしてく れるだろう。

 SDSSの観測データはウェブサイトで一般にも公開され、これまで観測された銀河一つ一つの美しい形を眺めることもできる。宇宙地図の全体像を眺めながら、その内部に入り込んで自由自在に銀河の旅ができるはずだ。


スローンデジタルスカイサーベイのページ
http://www.sdss.org/(英語)

http://skyserver.nao.ac.jp/jp/ (日本語)