コラム
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2004年 9月分 vol.1
太陽爆発の予報めざす。最高性能望遠鏡
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


太陽観測衛星「ようこう」がとらえた太陽コロナ。コロナの磁力線が複雑なループを描いている。(提供:JAXA)  地上の天気予報も難しいけれど、宇宙の天気予報はもっと難しい。そう、宇宙にも天気はあるのです。風が吹き、時に嵐が起こる。たとえば2003年10月下旬、太陽には肉眼で見えるような大きな黒点が出現。その大きさは地球の直径の10倍以上。そして数日後に、太陽で大きな爆発(フレア)が起こった。太陽から高速のプラズマ風が吹き出し、地球の周りの磁気圏で「磁気嵐」を起こし、北海道やさらに南の地域ではオーロラが見られた。

 一方で、太陽風は人工衛星を直撃し、ダメージを与える。今や私達の生活は人工衛星を抜きにしては語れない。太陽フレアの予報の精度を上げれば対策もたてやすい。だが、そもそも私達は一番身近な星・太陽のことを実はまだよくわかっていない。近くにありながら、その膨大な熱のために観測するのが非常に難しいからだ。日本はこれまで二つの衛星で太陽を観測してきた。1991年から10年以上観測を続けた「ようこう」は爆発する太陽の荒々しい姿をX線で詳細に見せてくれた。

 「ようこう」が見たのは太陽のコロナ。皆既日食の時に見える太陽の大気で、温度は数100万度以上もある。このコロナをX線で見ると、複雑なループを描いている様子が見える(上の写真)。ループは太陽の黒点を結んでいる。黒点は強い磁石のN極、S極のようなもので、N極とS極を結ぶ磁力線がコロナにのびだしているのだ。黒点が動くと、コロナの磁力線がねじられて、エネルギーを蓄える。ちょうどねじったゴムひもが力を蓄えるように。そしてこのコロナの磁力線がつなぎ変わったときに、フレアの大爆発が起こると研究者たちは考えている。

SOLAR-Bの可視光・磁場望遠鏡。500km先の50cmの物を見分ける世界最高の分解能を実現。太陽からの熱を逃がす、衛星の姿勢のぶれを補正するなど工夫がいっぱい。(提供:国立天文台)  でも「ようこう」はコロナしか見ていない。フレア現象の担い手である「磁場」を詳しく観測する必要がある。2006年度に打ち上げる予定の太陽観測衛星SOLAR-Bでは、日米英の国際協力で3つの望遠鏡を搭載。日本は可視光・磁場望遠鏡を米国と分担、望遠鏡部を国立天文台と三菱電機が制作した。500km離れた場所の50cmのものまで見分けられる世界最高性能の視力のよさ。コロナの下の彩層から光球まで約2000kmの深さにわたって太陽大気の構造、温度、速度、磁場などの3次元的なデータを得る。

 太陽表面の光球は温度約6000度しかないのに、コロナは数百万度。冷たい本体の周りを熱いコロナがとりまく事実は「天文学上の大問題」と言われている。また、太陽の明るさが一定でなく、地球へ注ぐエネルギーが変動していることも問題になっている。気候への影響がないか、気になるところ。そのあたりもSOLAR-Bは探ってくれるでしょう。

 私達、地球に生きる生命はみな「太陽の子」。母なる太陽のことをキチンと知っておきたいですね。


国立天文台 SOLAR-Bのページ
http://solar.nro.nao.ac.jp/solar-b/

JAXA宇宙科学研究本部 SOLAR-Bのページ
http://www.isas.ac.jp/j/enterp/missions/solar-b/index.shtml