コラム
前のコラム 13日夜は流れ星に願…
次のコラム 気球が探す「反物質の…
2004年 12月分 vol.3
土星の衛星タイタンに音楽を。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


土星探査機カッシーニから切り離され、衛星タイタンにおりていく観測機ホイヘンス。タイタンの大気は原始地球に似ていると考えられている。生命誕生のヒントが得られるかもしれない。(David Seal,NASA)  7年間の歳月、約40億kmの旅路の果てに、土星探査機カッシーニは衛星タイタンに観測機「ホイヘンス」をおろす。クリスマスにホイヘンスは切り離され、1月中旬にタイタンの大気に突入する予定。タイタンは地球の月より大きく、濃い大気をもつ衛星。ミステリアスな大気のヴェールを潜り抜け、タイタン地表の様子を初めて明らかにするだけでなく、「ホイヘンス」は4曲の音楽を運んでいる。史上初めて他の衛星に着陸する音楽だ。

 ロックンロールをタイタンに送るプロジェクトは「MUSIC2TAITAN」。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)から作曲を依頼されたのはフランスのミュージシャン、ジュリアン・シヴァンジュら(Julien Civange、Louis Haeri.)。「La La La」,「Bald James Dean」「Hot Time」「No Love」の4つのオリジナル曲を作った。ジュリアンは10歳の時にDJデビューした。La Placeというバンドを結成し、デビッド・ボウイやローリング・ストーンズのオープニングバンドとして活躍した時期もある。その後、様々な事情で社会からドロップアウトした人々を救う活動「エマウスムーブメント」のフィルム音楽の作曲等も担当している。

UKシェフィールドのデザイン集団The Designers Republicによって作成されたロゴ。 ゥ siliwood ジュリアンは『「MUSIC2TAITAN」は革命的なアートプロジェクト。人類の歴史上難しいこの時代に、宇宙の旅に想いを馳せ、夢見る数分間の時間を提供したい』と曲作りに込めた想いを語った。「(カッシーニは)とってもアカデミックでオフィシャルな宇宙ミッションだけど、ロックはみんなの気持ちを宇宙の旅に重ね合わせることができると思うよ」。

 ジュリアンは曲作りのインスピレーションを得るために、アポロ計画のアームストロング船長の月面着陸のシーンを見たり、映画スター・ウォーズを見たりしたという。そして土星探査機カッシーニの旅の行程に合わせた4つの曲を作った。

 「La La La」はミッションの準備段階。探査機を作る白いつなぎの服を着た作業員の姿はジュリアンに一番好きなロックをイメージさせたようだ。夢を現実にする、狂喜にも似た純粋さ。「Bald James Dean」はクリスマスに行われる探査機カッシーニとホイヘンスの切り離しシーン。「Hot Time」は実験的な音楽で、ホイヘンスのタイタン地表での探査をイメージしている。そして「No Love」は穏やかでメランコリックな曲。だがそこには、問題提起が込められている。「宇宙に一体何を持っていくべきなのか。廃棄物か、モナ・リサか?」と彼は問う。

 12月21日から「MUSIC2TAITAN」のウエブサイトでは、4つの曲を聴くことができる。その曲を聴きながら、クリスマスははるか遠くの土星の月に想いを馳せたい。


MUSIC2TAITAN
http://www.music2titan.com/