コラム
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2005年 4月分 vol.1
宇宙旅行、日本での実現は?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


20年後以降の有人再使用輸送機のイメージ。JAXA長期ビジョンより。(提供:JAXA)  巷でウワサの宇宙旅行。お金があれば即行けるみたいだけど、私の貯金レベルでいけるのはいつ? という方に。4月7日に発表されたJAXA長期ビジョンに「宇宙旅行」という言葉を発見。日本でも実現するんでしょうか?

 その前に。宇宙旅行と一口に言えど、約20億円で売り出し中の1週間の国際宇宙ステーション旅行は、地球を回る「オービタル」飛行。ヴァージン・ギャラクテックが約2300万円で2008年に売り出す予定の商品は「サブオービタル」と呼ばれる飛行で、高度約100kmまで上がって降りる間に数分間の無重力状態を体験する約1~2時間の旅だ。ヴァージン以外にも米ロで実現を目指す会社が、次々名乗りを上げている。

 サブオービタル飛行でも確かに宇宙飛行士の仲間入りだが、できれば地球の周りをぐるりと回ってじっくり地球を眺め、ゼロGを味わいたい。しかも、手の届くお値段で。

 JAXA・宇宙科学研究本部の稲谷芳文氏によれば、「サブオービタルは、今の技術でも民間で実現できるが、オービタル宇宙旅行で旅行代金を下げるには、使い切りロケットでなく、完全再使用の新しい技術が必要」。サブオービタルでは秒速1kmまでの加速を実現すればいいが、オービタルには秒速8kmの加速が必要。必要なエネルギーは64倍にもなる。高性能のエンジン、機体の軽量化、新しい耐熱材等の開発に約2兆円規模の投資が必要になるとか。「でも技術的には不可能ではない。100万円で旅行する人が年間100万人になれば、技術開発のコストが約2年で回収できる。何より100万人が宇宙に行く時代になれば、社会はガラリと変わるでしょう」と稲谷氏。列車や車、飛行機といった輸送機の発達で私達の生活や世界観が大きく変わってきたように、宇宙にみんなが行く時代になれば、社会は画期的に変わるだろう。私達の意識も文化も宇宙を舞台に語られるようになる。

 実は「100万円の宇宙旅行」は、稲谷氏らが中心となった日本ロケット協会で約10年前から真面目に検討されていた。現在は(財)日本航空協会の航空宇宙輸送研究会に受け継がれている。たとえば地球軌道を2周して約3時間で帰ってくる完全再使用型の50人乗りの宇宙船(「観光丸」と名づけられている)を使った、最も新しい事業性評価シミュレーションが、航空宇宙輸送研究会のメンバー・日航財団の橋本安男氏らにより作成されている。

 一例をあげると観光丸の機体価格が300億円として、年間に100回のフライト、1人500万円払えば機体の借金を10年以内に返済することが可能で、投資家の目から見て事業として成立する。しかし大前提として、宇宙船の技術開発は莫大な投資が必要で、民間だけで行うのは困難。基本技術の開発は国が行ってそれを民間転用する必要がある、としている。

20年後以降の有人再使用輸送機のイメージ。JAXA長期ビジョンより。(提供:JAXA)  ではJAXAは、宇宙旅行についてどう考えているのだろう? 4月7日にJAXAが今後の20年間の宇宙航空の望ましい姿を提案する「JAXA長期ビジョン」を発表。その中に「誰もが行けて使える宇宙の実現」という見出しが。簡単にまとめると、宇宙旅行の大衆化には現在のロケット技術の成熟だけでは不十分で、新たな宇宙輸送システムが必要、としながらも当面は、現在開発中の技術を発展させる方向だ。10年後までに「人が乗れるほどの」使い切りロケットを開発や、宇宙ステーション補給機(HTV)を翼をつけて地上に帰還させたり、月との輸送船に使えるようにする。同時に再使用型実験機による無人飛行経験を蓄積。こうして有人飛行に必要な技術を蓄積した後、日本独自の有人機を持つかどうかの判断を国に仰ぐ。GOサインが出れば20年後頃までに、使い切りロケットでの有人輸送・帰還機の実現、独自の有人再使用型輸送機の開発着手を目指す、そうだ。ということは、最低20年はかかるということか・・・。

 長期ビジョンの委員会副委員長・樋口清司JAXA理事は「宇宙旅行を日本で実現するには技術はもちろん制度の問題も大きい。米連邦航空局FAAが宇宙旅行の法整備を行ったように、制度面の検討も進めたい。もちろん、国民のニーズがあれば。」と語った。早く安く宇宙旅行に行きたい人は、どんどんアピールしていきましょうね。