コラム
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2005年 5月分 vol.2
女性12人、ベッドで60日間の実験
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


頭を足より6度下げた状態で横たわると、宇宙にいるのと近い状態が模擬できる。この状態で60日。シャワーも食事もベッドの上で。(ESA)  3月19日から60日間、ドイツ、フランス、ポーランド等欧州7カ国12人の女性が、フランス・トゥールーズの研究所で寝たきりの状態で過ごした。長期間宇宙飛行をする場合の骨や筋肉など身体的、精神的影響を調べようという実験。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)では男性が参加して同様の実験を行ったことはあるが、女性だけの実験は初めて。

 実験の名前は、WISE(Women International Space Simulation for Exploration)。フランス宇宙医学生理学研究所(MEDES)、ESA,フランス宇宙機関(CNES)の共同研究だ。ベッドに横たわり、頭を足より6度下げた状態にすると、頭から足の方向への重力がかからなくなり、宇宙の無重力にいるのと近い状態になる。このままで食事をとったりシャワーをあびたりして暮らす。「ベッドレスト」と呼ばれるこの実験は日本でも行われているし、ESAが2001年と2002年に行った90日間のベッドレスト実験にも日本は参加している。

 なぜこの実験がくり返されるのか。宇宙に長期間飛行すると、無重力のために骨に力が加わらず筋肉を使うこともなくなる。10日間で3.2%の骨成分が失われるというデータもある。火星有人飛行では往復の宇宙飛行と火星滞在を合せて3年近くも0~3分の1G下で過ごさなければならない。運動をするとか、骨吸収抑制剤を宇宙飛行の前に注射するなどの対策もあるが、どんな運動をしてどんな薬を投与すれば効果がどのくらいあるか、という研究が必要なのだ。

ヨーロッパ宇宙機関の元宇宙飛行士で2回で25日間宇宙に滞在したClaudie Haignere
が実験期間中に訪問。今彼女はフランスの大臣になっている。(ESA/CNES)

 ところが女性のデータが不足していた。6ヶ月以上宇宙に滞在した女性飛行士は3人しかいない。一方男性飛行士は48人。5~16日間の短期ミッションでは寝たり座ったり姿勢を変えたときに、女性のほうが目眩を起こしやすいのではないかという指摘があった。ところが女性のデータ数が少ない。そこで女性だけの実験が行われることになった。

 今回の実験にあたり、25歳~40歳、タバコを吸わないこと、身長185cm以下などの条件でボランティアを募ったところ1600人の応募があった。実験は3月と秋の2回に分けて行う予定で、1回目の12人が3月19日から実験開始。運動をするグループ、薬(プロテインのサプリメントなど)を投与するグループ、何もしないグループの3つに分けた。フリータイムには自宅に電話したりメールしたりも可能。スペイン語やポルトガル語の会話レッスンも受講可能。ボランティアや医療スタッフの間には緊密な友情が生まれたようだ。

 「足があることを忘れてしまった」とドイツから参加したエリザベスは言った。モニカ(チェコ共和国)とローレンス(フランス)は「いつか女性が火星に行く日が来る。」と言う。彼女達は宇宙開発に貢献できたことを誇りに思い、またベッドの上で自分の内面に向き合い、自分の肉体の限界にチャレンジしたことに深い満足感を覚えたようだ。


ヨーロッパ宇宙機関
http://www.esa.int/esaCP/index.html

WISE
http://www.spaceflight.esa.int/users/file.cfm?filename=miss-gbfac-current