コラム
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2005年 6月分 vol.2
太陽光を帆に受ける「宇宙ヨット」 打ち上げ
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


6月21日に打ち上げられるソーラー・セール「コスモス1」。帆の長さは15m、面積は600㎡。(提供:NPO Lavochkin, The Planetary Society )  6月上旬、ヨットでの単独無寄航世界一周を2人の日本人男性が成し遂げた。5万キロを二百数十日。ロケットでどーんと宇宙に飛び出すのもいいけれど、ヨットでひとり大海原を翔けるのもたまらなく魅力的。と思ったら、宇宙でも大きな帆を広げ太陽光の力で進む「ソーラーセール」が、6月21日にも打ち上げられようとしている。

 ソーラーセールの名前は「コスモス1」。1980年に故カール・セーガンらによって設立された世界最大の民間宇宙団体「惑星協会(The Planetary Society)」とロシアのNGOラボチキン協会、コスモス・スタジオ社(カール・セーガン夫人のアン・ドルーヤンが経営)の共同プロジェクト。宇宙空間に大きく広げた巨大な薄膜で、太陽光を反射して進む。だからエンジンも燃料もなし。将来は木星より遠く、深宇宙への航海が可能なヨットと期待されている。

 推進に必要な力を得るためには、非常に大きなセールが必要になる。コスモス1は長さ15mの細長い三角形の帆が8枚。あわせると直径約30mの風車のような形に。全表面積の広さは600平方メートルで、バスケットボールコート約1.5倍の大きさになるという。

 打ち上げはロシアの軍事用ミサイルを改良したヴォルナ・ロケット。ロシア北西部のバレンツ海の潜水艦に積み込まれ、海面下から発射される。高度約800kmの周回軌道で、コスモス1はセールの展開を始める。実は2001年7月に「コスモス1」の予備実験として2枚の帆の展開を行う試験機を打ち上げたが、ロケットから試験機の分離に失敗。セールの展開はできなかった。今度成功すれば、実際に太陽光を受けて進むソーラーセールが世界で初めて実現することになる。

2004年8月9日、鹿児島県内之浦から打ち上げられたJAXAの小型ロケットで、展開したクローバー型のソーラーセール。(提供:JAXA).  ソーラーセールを使うアイデアは1919年ごろから出されていた。だが、宇宙の放射線や温度、宇宙塵などの過酷な環境に耐えるような軽くて薄い材料がなく、SFの世界に留まっていた。それが最先端の技術で現実のものとなってきたのだ。

 日本でもJAXA宇宙科学研究本部がソーラーセールを将来の惑星探査ミッションに使うことを目ざし、研究を行っている。2004年8月9日、鹿児島県内之浦の発射場からロケットを打ち上げ、直径10mのセールの展開実験に世界で初めて成功した。1枚はクローバー型、1枚は扇形で厚さ7.5ミクロン(ミクロンは1000分の1mm)のポリイミドフィルム製。ポリイミドはアポロ月着陸船を包んでいた金色の膜で、熱にも放射線にも強いのが特徴だ。コスモス1は薄膜にマイラー(ポリエステルフィルムの商品名)を使用。厚さ5ミクロンでゴミ袋の四分の一の厚さと惑星協会は説明している。

 晴れた夜には、コスモス1が移動するのを見ることができ、写真コンテストもあるようだ。詳細は惑星協会のウェブサイトで。


惑星協会ソーラーセールのページ
http://www.planetary.org/solarsail/index.html