コラム
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2005年 6月分 vol.5
彗星衝突。インパクト後の変化を追え!
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


6月14日、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したテンペル彗星。左が核で大きさは約14km×4km。右が約7時間後に撮影したジェット。ジェットの長さは約2200km。7月4日はさらに大きなジェットが見られるか!?提供:NASA, ESA, P. Feldman (Johns Hopkins University), and H. Weaver (Johns Hopkins University/Applied Physics Lab)
 7月4日午後2時52分(日本時間)に迫った、NASA彗星探査機「ディープ・インパクト」のクライマックス。探査機から放出された弾丸が、いよいよターゲットとなる「テンペル1」彗星の核に衝突する。まずはちゃんと衝突するかどうかが一つの山だが、衝突後に彗星にどんな変化が現れるか、宇宙と地上にある天文台の目が集中的に注がれる。

 重さ約370kgの円形の弾丸(インパクター)が秒速約10kmで彗星にぶつかると、最大深さ30~50m、大きさ200mほどのクレーターができると予想されている。彗星の核は「汚れた雪球」。表面が真黒な塵で覆われ、内部は氷や塵などが混ざっていると言われるがその正体はよくわからない。ディープ・インパクトの弾丸が、表面の殻を突き破ることができれば内部の氷が現れ、太陽光があたって激しく蒸発する様子が観察できるのではないか、と考えられている。だが、殻が厚ければクレーターができるだけで、内部の様子はわからないかもしれない。

 ディープ・インパクトの探査機本体ももちろん衝突の瞬間を観測するが、その時間は限られている。そこで1億3360万km離れた地上でも大観測体制がとられている。

 ハワイは衝突の瞬間、ちょうど夜の7時52分。ハワイ島のマウナケア山頂にある四大望遠鏡(すばる、ケックI・II、ジェミニ)が、テンペル彗星を見守る。すばる望遠鏡はNHK 超高感度ハイビジョンカメラで、衝突現象のハイスピードカラー撮像を行い、世界のメディアにビデオ映像の配信を予定している。これは楽しみ。ただ、日没後まだ明るい時間なので観測できるかどうかが心配な点。

 NASAの発表によると、20カ国60以上の地上の望遠鏡が、観測体制にあるという。さらに宇宙にある天文台、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラX線望遠鏡、スピッツァー赤外線望遠鏡など様々な波長で観測する。期待されているのは、ヨーロッパの彗星探査機ロゼッタ。別の彗星を目指して飛行中だが、テンペル彗星に最も近い。

 日本時間では昼の3時前に衝突が起こるので、衝突の瞬間は観測できないが、もし衝突で彗星核の殻が破られると、数時間後に激しい蒸発で彗星が明るくなったり塵のジェットが伸びたりするかもしれない。するとちょうど日本の空が暗くなる頃に観測できる可能性もある。ただし、彗星の明るさは10等星ぐらい。肉眼で見るのは難しい。空の暗い場所で天体望遠鏡を使う必要があるだろう。ちなみに場所は南西の空、おとめ座のスピカの近くだ。

 自然は私達の想像をはるかに超えている。何が起こるかは未知数だ。7月4日夕方から、おとめ座スピカあたりに注目してみましょう。


国立天文台ディープ・インパクト
http://www.nao.ac.jp/pio/200507deepimpact/

NASAディープ・インパクト
http://deepimpact.jpl.nasa.gov/home/index.html