コラム
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2005年 8月分 vol.4
野口さん「第六感」で感じた宇宙
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


飛行5日目、第1回目船外活動中の野口飛行士。国際宇宙ステーションとスペースシャトルの貨物室の間を何度も行き来した。(NASA)  やはり宇宙から帰ってきた野口さんの言葉は、「宇宙を見た人」ならではのものだった。そりゃそうだ。約14日間の飛行中、3回の船外活動は合計約20時間。あれほど宇宙を縦横無尽に動き回った人はそういない。8月23日に行われたテレビ会見で「宇宙をどう感じたか」と尋ねてみると、答えは「闇が襲ってくるのを『第六感』で感じた」。野口さんの口から「第六感」という言葉を聞いたのは、初めてだ。

 野口さんが体験した宇宙を、もっと身近に感じてみたい。そこで私は野口さんに、宇宙服ひとつで宇宙空間に出たときに、「音やにおい、肌に感じる感覚など、宇宙を五感でどう感じましたか?」と聞いてみた。野口さんはこう答えた。「地上の訓練でまったく経験できないことの一つに、宇宙で45分ごとに昼と夜がくるという「デイ・ナイトサイクル」があります。思ったよりもそのサイクルを『第六感』で感じるんだなというのが非常に印象に残っています。」なるほど、プールでの船外活動訓練では宇宙の日の出や日の入りは模擬できない。

 「たとえば宇宙の日の出。2〜3分の非常に短い時間に真っ暗な夜から真昼間にうつるんですが、そのときにバーっと温度があがっていきます。宇宙服でシールドされているので、宇宙服内の温度はほとんど変わらないようにされているのに、自分の体が『これから昼に変わるぞ』と、バイザー(ヘルメットの日除け)を下げたり宇宙服の中の温度を下げ気味にしたりと、手順でなく自然に体が反応するのが非常に面白いなと思いましたね。」

 「逆に昼から夜の世界にうつるときに、『闇がおそってくる』という第六感がある。それが(指先の)ヒーターをつけたりヘルメットのライトをつけたりという動きになる。体の予感として感じるというのが面白いなと思った。体にあたる太陽光の力、熱であったり温度の変化に対する予兆みたいなものを感じるのかなと思いました。」

着陸が延期されたときに、ニュージーランドの上空で見たオーロラ。みんなで窓に張り付いてみたという。(NASA)  宇宙での温度変化はすさまじい。太陽光のあたる場所はプラス120度。あたらない場所はマイナス150度にもなる。その変化が45分おきに訪れる。夜になるときに「闇が襲ってくる」という表現、宇宙でサバイブしているようで興味深いなぁ。体全体でいち早く状況を察知して、ヒーターをつけたりバイザーを下げる対処をする、その「動物的第六感」が野口さんの船外活動をきわめてスムーズに効率よく100%の成功に導いた秘訣なのだろう。

 日本人飛行士では、土井隆雄飛行士がスペースシャトルで船外活動を行っているが、国際宇宙ステーションとシャトルの間を数十メートルも手で伝いながら移動したり、国際宇宙ステーションのてっぺんの「見晴らし台」のような場所から地球全体を眺めたり(その時NASAテレビで映し出された地球の映像は、思わず声をあげるほど圧巻だった)、野口さんは地球人が誰も経験したことのない稀有な体験をし、そこから新しい「何か」を全身で受け止めているはずだ。だがそのほとんどは、まだ言葉として私たちに伝わってきていない。

 STS-114はまだ終わっていない。野口さんたちクルーが見た宇宙、感じた宇宙をもっともっと知りたいし、伝えたい。そこから人間が宇宙に行くことの意味が見えてくるような気がするのだ。