コラム
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2005年 11月分 vol.1
88万人の名前、小惑星に着地へ。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


「はやぶさ」の観測で、イトカワの地形は「理論的な予想を完全に覆し、きわめて多様」だとわかってきた。砂(レゴリス)で覆われない、ゴツゴツした岩だらけの地域は特に興味深い。写真Aは11月12日にかけらを採る予定の「ミューゼスの海」。(提供JAXA)  2003年5月に打ち上げられた日本の小惑星探査機「はやぶさ」が、ミッション最大の山場を迎える。11月12日と25日、地球から遥か3億キロメートル彼方の、長さ約540mのオイモ型の小さな星「イトカワ」にタッチダウン。小惑星の「かけら」をとる。リハーサルが11月4日に行われ、149カ国88万人の名前を刻んだ小さなボール「ターゲットマーカー」がイトカワに着地することになる。

 「はやぶさ」は世界最先端の技術をぎっしり詰め込んだ、非常に野心的なミッションだ。小惑星は46億年前に太陽系ができた頃の状態を留めた「原始太陽系の化石」といわれる。そのかけらを採取し、2007年夏に地球に帰ってくる。地球以外の天体に降り立ち、「お土産」を持ち帰ったのは、米国と旧ソ連の月ミッションだけ。小惑星ではもちろん世界初だ。

 着陸して試料をとり帰ってくる(サンプルリターンと呼ばれる)なんて、時間はかかるし技術的にもチャレンジング。なぜわざわざ? 火星探査機のように観測機器を積んでいき、現地で調べる観測では、探査機の重量制限から、積んでいける観測装置の性能や種類が限られる。しかし、わずかなサンプルでも地上に持ち帰れば、最先端の装置を使って様々な角度から分析できる。将来、科学者達は例えば火星のサンプルを地上に持ち帰りたいと考えている。しかし火星は重力が大きいため、いったん着陸すると離陸するのが大変。「イトカワ」のような小惑星は重力が小さいから着陸や離陸に苦労することもなく、将来のサンプルリターンミッションの練習にもってこい。しかも小惑星は太陽系の起源を探る上でも魅力的な天体だ。

 さて、「はやぶさ」が「イトカワ」のサンプルを摂る方法は極めてユニーク。表面が硬い岩盤か砂場か全然わからない段階で、「1秒でサンプルをとるべし」という厳しい条件の中で科学者達が試行錯誤。タッチダウンした瞬間に高速で弾丸を打ち出して小惑星の表面を砕き、飛び散ったかけらを長さ約1mの漏斗型の「サンプラーホーン」で集め、筒型の収集箱に導く。筒の中は二つの部屋に分かれていて「三色ふりかけの容器」のように回転、1回目と2回目のかけら別々の小部屋に入るしくみ。

 リハーサルは11月4日の14時頃に行われる。「はやぶさ」はイトカワの表面30mぐらいまで接近、レーザー高度計の機能を確認。そして、直径10センチの球ターゲットマーカーを放出。ターゲットマーカーは着陸地点へ「はやぶさ」を誘導する灯台の役割を果たす。さらに、小型ロボット探査機「ミネルヴァ」をおろす。ミネルヴァはイトカワ表面を飛び跳ねながら、写真を撮って地上に送ってくれる。どんな写真がくるか楽しみだ。

 11月4日のリハーサル時におろされるターゲットマーカーには149カ国約88万人の名前を刻み込んだフィルムが張られている。実は私の名前もその中に。88万人が息を呑む瞬間になるだろう。


JAXAでは着陸地点の名前を募集している。11月30日17時までに下記へ
(応募フォームは11月上旬にオープン)
https://ssl.tksc.jaxa.jp/hayabusa/

JAXA「はやぶさ」プロジェクト
http://www.hayabusa.isas.jaxa.jp/j/index.html

「はやぶさ関連記事」
http://www.isas.ac.jp/j/enterp/missions/hayabusa/relate.shtml

今日の「はやぶさ」
http://www.isas.ac.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml