コラム
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2006年 5月分 vol.2
宇宙旅行はファッショナブルに。「宇宙ウェア」コンテスト・トップ10発表
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


梅津緑さんの作品。「宇宙散歩」をテーマに親子ペアで(上の絵は子ども用)。 木舟麻美さんの作品。肩、ひじ、ひざに円形のプラスチック。シルエットで柔らかさを。  「七夕」をイメージした和風の服、親子の「宇宙散歩」をテーマにした服、吹き込んだ息を噴射して宇宙を飛び回る服など、宇宙旅行を楽しむための工夫に溢れたデザインが集まった。これらは、「スペース・クチュール・デザインコンテスト」のトップ10に選ばれた作品。最優秀賞に選ばれたデザイナーは、2007年頃実現する民間宇宙旅行の初フライトで採用される公式宇宙ウェアの開発に参加することができる。

 「スペース・クチュール・デザインコンテスト」(主催:スペース・クチュールコンテスト実行委員会、ロケットプレーン社、協力:JAXA)は米国ロケットプレーン社が2007年~2008年に初飛行を予定している高度100kmの宇宙旅行の公式ウェアを開発するデザイナーを選ぶコンテスト。(2005年10月VOL.2コラム参照)最優秀賞に選ばれると、ファッションデザイナー・松居エリ氏、日本女子大学教授・多屋淑子氏らとともに宇宙ウェアを制作する。2005年11月から募集が開始され、学生から62歳まで882点(365人)のデザイン画の応募があった。

細井麗子さんの作品。口から吹く息を指先から噴射して宇宙で動く。 松田しおりさんの作品。無重力の宇宙で「フワフワ」感を楽しむ。  「トップ10」では、デザイン学校の学生さん達が「宇宙っぽい」「カッコいい」宇宙服を多くデザインしている中、目をひいたのは筑波大学の細井さんの作品。「エンタテイメントを取り込んだ」という宇宙服は、口元から息を吹き込むと指先から噴射されて宇宙を飛びまわる「機能」をつけたもの。宇宙で「お洒落」を楽しむか、無重力などの宇宙環境を「楽しむ」ことを優先するか、それとも「快適性」か。当たり前ながら旅の目的によって着る服は変わる。トップ10の作品からは、そんなコンセプトの違いが浮き上がってきた。

 実行委員長の松居エリ氏は「色んな発想の観点から応募があったのがすごく面白い。私の発想を超えている方もいて嬉しいですね。一緒に作る上で刺激的な話し合いができそうです」と語っている。今回選ばれたトップ10と佳作3人のデザイナーは実際に宇宙ウェアを制作、9月には公開ファッションショーで各賞を決定する。さらに、コンテスト実行委員の大貫美鈴氏(スペースフロンティアファンデーション アジア・リエゾン)によれば、デザイナー自身が自分の服を着て、無重力飛行を体験。史上初の「宇宙ファッションショー「Catwalk in Space」を9月頃ロシアで実施することも計画中だ(企画:スペーストラベラーズ社ほか)。

トップ10受賞者と、実行委員長の松居エリ氏。「宇宙旅行時代が始まれば、ファッションが与える役割は大きくなる。ファッションは心。素敵な格好をしたら元気になる」  ところで、松居エリ氏の狙いはさらに大きい。「一人一人の体にあった『スペース・クチュール』」の実現だ。(クチュールは「仕立て服」。)「作られた既製服に自分達の体をあわせるのはそろそろ変。最新のテクノロジーを使えば自分の体に合う『ハイパー・クチュール』が実現できる。たとえば身体全体を計測して3Dで認識、60万個のポリゴン(多面体)で視覚化して制作することを検討中です」(松居氏)。美の普遍性を追及する過程で自然界に行き着き、科学者とコラボレーションした服作りをしてきた松居氏が、その経験を活かし、一般のデザイナーとどんな「宇宙ウェア」を形にしてくれるか、とても楽しみだ。

 スペース・クチュール・デザインコンテストではデザイナーに限らず、一般からの「ドリーム部門」の応募を受け付けている。8月15日までに「宇宙で着て見たい服」などをA4サイズの用紙に書いて応募。1位に選ばれると米国への宇宙飛行見学ツアーに参加できるほか、自分の大切なものを宇宙ロケットに搭載することができる。


スペース・クチュール・デザインコンテスト
http://www.space-fashion.com/