コラム
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2006年 7月分 vol.2
宇宙旅行者、船外へのオプショナルツアー。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


宇宙船の外へ。地球とじかに向き合いたい。極上の浮遊感を味わって。  人間って欲深い生き物だ。宇宙に行きたい、行けるだけでいいと思っていたはずなのに、いざ実際に宇宙旅行者が出てきてしまうと、次の「初めて」がほしくなる。その一つが「宇宙遊泳」。宇宙服だけを身にまとって、宇宙船から外の宇宙空間へ。野口飛行士によれば、宇宙船内と船外で見る地球はまったく違っていて、船内で見る地球は『景色』だが、宇宙遊泳で見る地球は手が届きそうな『圧倒的な存在感』で迫ってくるらしい。宇宙飛行士の中でも「花形」の仕事である宇宙遊泳が、宇宙旅行者にも開かれようとしている。

 7月21日にアメリカの旅行会社スペースアドベンチャーズ社(SA社)が発表したところによると、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の旅行者が、90分の宇宙遊泳を行う計画。現在、ISSに約1週間滞在する旅行ツアーに参加するには、約6ヶ月の訓練を終えなければならないが、宇宙遊泳を行うにはさらに約1ヶ月間の訓練が必要。またISSの滞在日数は6~8日長くなる。旅行代金は1500万ドルプラスされて、3500万ドル(約41億円)! 一般庶民にとっては非現実的な値段であるには変わりないが、ISSツアーに20数億円もの大金を出せる人にとっては、「もういっちょ!」と上積みできる金額なのかもしれない、と想像する。

 実現すれば、1965年にロシア人のレオーノフ氏が始めて船外に出て以来、まだ200人ほどしか行っていない(宇宙に行った人は450人ぐらい)体験が開かれる可能性が出てきた。旅行者が宇宙遊泳を行う場合、こんなことになるだろう、と現実的にシミュレートしてみると・・・

ISSで使っている宇宙服は2種類ある。右が宇宙旅行者が着ることになる、ロシアのオーラン宇宙服。ヘルメットの上に天窓があるのが特徴。  まず、着るのはロシア製の「オーラン」宇宙服。(野口さんが着たのは、NASAの宇宙服なので間違えないように。ISSではなんでもNASA流とロシア流の二刀流です。)オーランの特徴は、ややふくらんで動きにくいが、着やすいこと。宇宙服は一体化されていて背中のドアを開けて入ったら、体の前の紐を引っ張ってバコン! と閉めるだけ。一人で約15分で着られる。(NASAの宇宙服はいくつにも分かれていて一人で着られない)そして気圧の調整を約4時間(シャトルでは約12時間かかる)。いよいよ宇宙への出入り口「ピアス」から宇宙空間へ! 宇宙旅行者に許された時間は90分。ISSが地球の周りを一周する時間だ。まずは地球に圧倒されるだろう。徐々に真空の宇宙空間の静寂さ、一人漂う孤独感、浮遊感まで感じられるかもしれない。想像するだけでゾクゾクしてくる体験だ。

 ロシア宇宙庁は検討の結果OKを出したようだが、旅行者の宇宙遊泳には必ずベテランの宇宙飛行士がエスコートをしなければならないし、船内にいる宇宙飛行士の支援も必要になるだろう。NASAがOKを出すかどうか。今後、旅行者の自由度(≒ワガママ度)が増すにつれ、「どこまでISSの人的・物的リソースを提供するか」は、ISSをどう使うか(どれくらいビジネスに開放し協力するか)も含めてISS参加国にとって避けられないテーマになりそうだ。宇宙旅行に限らず、宇宙ビジネスの場としてISSを使えるかどうかの試金石になるのかもしれない。

(写真提供:NASA)