コラム
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2006年 9月分 vol.2
宇宙ではロボットが執刀? 無重力での手術成功。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


宇宙に行く前に医学訓練を受ける飛行士達。宇宙ステーションには怪我などに備えて縫合用の針や糸、局所麻酔の注射などが救急箱にあり、一通り使えるように訓練していく。(NASA)  9月末、フランスの医学チームが、世界で初めて無重力での手術に成功した。宇宙病院? 実は、無重力フライトを行う飛行機の中。AP電などによると、約3時間の飛行中に放物線飛行をくり返し、約22秒の無重力状態を25回。その短い時間に5人の医師達が局部麻酔を使い、患者の腕ののう胞を取り除いた。チーフのドミニク・マーティン医師によると「手術は予想通りで、克服しがたい問題はない」とのことだ。

 これは、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)とフランス国立宇宙研究センターのプロジェクトで、宇宙の遠隔医療のための実験。国際宇宙ステーションで長期滞在中の飛行士や、月や火星に向かう飛行士が事故にあったり、急に具合が悪くなったときに、正しく診断し、場合によっては手術が必要になることもあるだろう。しかし、無重力下の宇宙で手術が可能かどうかわからない点が多い。血液も、メスも、そして臓器さえも浮かんでしまう。

 今回の実験で患者となった男性は、「熱狂的な」バンジージャンパーであることが、選ばれた一つの理由らしい。バンジージャンプでは急降下と急上昇を繰り返すところが、無重力フライトと似ている。なんせ、無重力状態と2Gの過重力状態を繰り返すのだから。そして、腕ののう胞除去という手術がシンプルであることも大きな理由の一つだ。

NASAは海底実験室で、ロボットを使った遠隔医療の実験を行っている。(NASA)  マーティン医師らのチームは、以前にもねずみの尾の動脈の手術を無重力環境で行っているが、人間への手術は初めて。将来的には、宇宙ロボットを使った地上からの遠隔医療を目標としているそうだ。 地上の治療でもロボットは既に使われいるし、宇宙でオペを行う時には助手として大いに活躍しそうだ。地上からの通信に時間がかかる火星ミッションなどでは、さらに自律的な医療ロボットも必要になってくるだろう。

 現在の国際宇宙ステーションでは、まず正しい診断を行うことが課題のようだ。NASAは2004年に国際宇宙ステーションに長期滞在中の宇宙飛行士たちが超音波診断装置を使って、交替で腹部をスキャンニング。地上にデータを送信、管制室の医師が診断を行った。そして将来のロボットを使った遠隔医療については、宇宙を模擬した海底の実験室と地上を結んで実験を行っている。 日本ではJAXAが信州大学と協力して遠 隔医療の実験を今年、行っている。

 いくら選抜試験で健康な宇宙飛行士を選んでも、例えば事故にあったり、急性心筋梗塞になるケースだってありえる。宇宙オペやドクターロボットの開発は、かなり重要なテーマなのだ。