コラム
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2007年 9月分 vol.1
宇宙で健康にくらすために。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 ロシアが月・火星への有人プロジェクトを発表して、オモシロイ展開になってきましたね。でも火星にマジで行くとなったら片道100日以上もの宇宙飛行。病気になったらどうするの? というのが大きな課題になりそうだ。

宇宙でトレーニング中のNASA飛行士。毎日2時間半。本当にみんなやってるの?「確かに筋トレが好きな飛行士とそうでない飛行士がいます。ですがきちんとやった飛行士は帰還後の筋力や骨量の回復も早いというエビデンスがあるので、飛行士たちに説得しています。同時にトレーニングが極力短くなる手法や、薬での予防についても研究を進めています」とJAXA立花氏。。(提供:NASA)  実は「宇宙飛行士の健康管理」について、日本は今、かなり本腰を入れて研究している。JAXAには「飛行士健康管理グループ」というチームがあるほどだ。というのも、2008年末に国際宇宙ステーション(ISS)で、日本人で初めて若田光一飛行士が約3ヶ月(場合によっては6ヶ月)、滞在することが決定しているから。これまでのスペースシャトルの宇宙飛行は長くても約2週間。長期飛行になると健康面でもケアすべき項目は多い。さらに宇宙での長期滞在の健康管理は、将来の火星への宇宙飛行にも生かされることになるため、NASAをはじめ各国が大きな研究テーマとして掲げている。

 では宇宙に長くくらす宇宙飛行士の健康には、どんな影響があるのだろう。もっとも大きいのは(1)筋力や骨量の減少。(2)放射線による影響。(3)精神的なストレスの3つ。(1)は無重力状態で骨や筋肉を使わなくなることで起こるのだが、たとえば宇宙で6ヶ月くらすと筋力は飛行前の20~30%低下する。骨のカルシウムは1ヶ月で1~1.5%減少するが、これはベッドで寝たままの高齢者の骨量減少の約10倍だとか。さらに溶け出した骨成分で尿路結石になることも。(2)の放射線は長期的な影響が心配だ。大気や磁力線が宇宙から降り注ぐ放射線を防いでくれる地上にいるのと違って、宇宙ではたった1日で地上の約半年分の放射線(胸のレントゲン3枚分)を浴びることになる。発がん性の恐れや目に直接当たれば白内障のリスクもある。そして(3)の精神的ストレス。閉鎖空間で同じメンバーが何ヶ月も暮らす。家族にも会えず、逃げ場もなし。ロシアとアメリカの共同飛行初期には、ストレスのために宇宙で引きこもったり、地上の管制官に八つ当たりするなどの例も報告されている。

 だが、もちろん対策はなされているのでご心配なく。筋や骨の減少対策は、飛行の半年前から体力増強トレーニングをして10~20%アップさせておくこと。飛行中も2時間半のトレーニングを毎日。精神的ストレスに対しては、海底や山での集団訓練で異文化コミュニケーションなどを十分に習得しつつ、飛行中もストレスをためないように家族や友人と面談したり、お気に入りの本やCD、食べ物などを定期的に届けるようにしたり。放射線に関しては訓練しようがないが、飛行士が浴びている放射線の量をモニターして、太陽活動が活発なときは、ISS内の避難場所に避難するように指示。各国では飛行士が一生で浴びる被爆量と1回あたりの被爆量の上限を決めていて、上限を超えると地上に帰還させることもあるという。

 さて若田飛行士の場合、精神的ストレスの心配はあまりなさそうだが、JAXA飛行士健康管理グループ長の立花正一氏によると、「日本人は和を重んじ、きめの細かい配慮をしてしまう『過剰適応』が考えられます。若田さんは責任感が強くリーダーとしても優れていますが、『がんばりすぎないように』とアドバイスしています。」とのこと。肩の力を抜いてってことね。

 宇宙での外科的な病気は幸いこれまで報告がないものの、宇宙ステーションには『診療所並みの』設備がある。そして長期滞在チームで医学担当になった飛行士は、『救急救命士程度に』点滴したり簡単な外科手術はできるように、訓練していくそうだ。つくづく宇宙飛行士って大変だけど、こんなに様々なスキルを備えてコミュニケーション能力も高いとなれば、飛行士以外にもどこでも何をしても生きていけそうだね。

若田飛行士のバックアップを務める野口飛行士のブログ。救急実習の様子が紹介されてます
http://www.j-wave.co.jp/blog/mp_noguchi/