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2008年 5月分 vol.1
「宇宙は地上より身体にラク」。土井流宇宙適応術とは
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 3月、スペースシャトル・エンデバー号に乗り込み、日本実験棟「きぼう」船内保管室を宇宙ステーションに見事取りつけた土井隆雄飛行士が帰国。1997年から10年半ぶりの宇宙飛行だが「身体は宇宙を覚えていた」という。すでに宇宙人? の土井さんの身体感覚を聞いた。

5月8日、帰国時の会見で。「宇宙ステーションの実験室は、きちんとしているというより、『おもちゃ箱』。仕事がしやすいように壁にベルクロテープでべたべたくっつけてある。乱雑とも言えるけど、エンジニアの自分にとってはスゴク楽しい実験室」 ―2度目の宇宙飛行。宇宙に帰ったという感覚がありましたか?

土井:そうですね、実は1回目の宇宙飛行で経験した無重力や地球の美しさが本当だったのか、夢じゃなかったのかなと思うことがあった。10年経つと頭では忘れてしまう。でも実際に行ってみたら、やはり本当の経験だったんだと再確認しました(笑)。

―1回目は眠るときに身体の感覚がなく意識だけが漂っている感じがしたと。

土井:同じ感覚はありましたね。でも1回目の時は本当に不思議に感じたんですが、今回は同じ事が起こっても、「あ、この感覚は覚えているな」と不思議でなかった。

―宇宙感覚が当たり前になってきた。では今回は何か、新しく感じた事は?

土井:スーパーマンはすごい! ということ。

―え? どういうことですか?

土井:宇宙ステーションは広いから、みんなで手を伸ばして水平に飛ぶスーパーマンをやってみたんです。ところが水平に飛ぼうとしてもだんだんお尻があがって、頭が下がってくる。そのうち、足が頭より前にきてひっくり返ってしまうんです。水平飛行は難しい。テクニックが必要だなと思いましたね(笑)

―1回目の飛行のときは、身体が宇宙に適応したことを「宇宙が私たちを呼んでいる」と表現されましたね。今回の飛行ではどう感じましたか?

土井:初日からすぐに適応しました。飛行前は心配していたんです。今回の飛行は宇宙に行ってから5日目まで、大事な仕事が連日詰まっていた。前回は初日に胃がむかむかして食事ができず、宇宙に適応するのに3日かかったんです。今回も同じ日数かかるとしんどいぞと。でも驚くほど、自分の身体が宇宙に適応するのが早かった。

―なぜでしょう?

土井:自分の身体が宇宙を覚えていたと思う。やはり、人間は適応能力を持っていて、宇宙に住むことは難しくない、宇宙に住むことも人間の生物学的な力に入っていると実感しましたね。

―土井さんの宇宙の表現はいつも、あたたかいですね。宇宙に迎えられているというか。

土井飛行士がアームで船内保管室を運んでいる時の映像。背景はアフリカ大陸。「作業中、この映像にすごく感激して、『地上に送ってみんなに見せなくちゃ』とすぐ送ったんです。一番のハイライトでしたね」(提供:NASA) 土井:そうですか? やっぱり、宇宙は身体にやさしい空間なんですよ。特に無重力がね。宇宙に行って気分が悪くなる、「宇宙酔い」という言葉は敵対的な印象を与えますよね。でもそうじゃない。身体が新しい環境に適応していく課程であって、戦ってはいけないんです。流れに身を任せる。1回目の飛行では、ぼくも気持ちが悪くなる感じがありましたが、それがすぎると「Space is very kind(宇宙はやさしい)」と思った。身体への負担が少ないから。だから今回は、最初に気持ちが悪くなっても、無理におさえようとしないと自分でも決めていたし、みんなにもそう言った。そのせいか、少し気持ちが悪くなる人はいても、誰も過剰な反応をする人はいなかったですね。

―宇宙は地上よりむしろ人間にとってやさしい空間だと感じますか?

土井:はい。重力の負担がないから、身体を動かすのも楽だし、疲れない。だから睡眠時間が少なくてすむ。5時間とか。地上の三分の二ぐらい。

―それはいいですね! ところで今もトレーニングは続けていますか?

土井:T-38のジェット機にも乗っていますし、週に3回ぐらい1時間から1時間半のトレーニングをしています。ジョギングしたり、ウェイトトレーニングをしたり。

―ということはもう1回宇宙に? 管理職の土井さんはイメージできません。

土井:ぼくもできません(笑)。次は宇宙ステーションよりもっと遠くに行きたいですね。