コラム
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2009年 9月分 vol.1
「潜水医学から宇宙医学へ」。新タイプの宇宙飛行士候補者誕生
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


宇宙飛行士候補者に選ばれた金井宣茂さん。座右の銘は「常に100%ポジティブに」。補欠になってからも選ばれるとポジティブに信じて自己鍛錬を続けて、この日を迎えた。  H-IIBロケット初号機で国際宇宙ステーションへの初の宅配便、宇宙ステーション補給機(HTV)1号機の打ち上げが成功した! ネットで中継を見ていても、すごい迫力。音も、振動も画面がガタガタ揺れる感じで。現場で見たらさぞかし身体にびんびん響いたことでしょう。宇宙ステーションへの到着は9月18日の予定。宇宙で長くくらす宇宙飛行士たちが到着したHTVの中に入って、荷物を運び出し、あける瞬間はワクワクするに違いない。

 さて、今年2月に日本人宇宙飛行士候補者二人が選ばれたが、そのときに補欠合格者が二人いた。補欠一番だった、金井宣茂(のりしげ)さんが、繰り上げ当選、宇宙飛行士候補者に採用された。先に選ばれていた油井さん、大西さんを追いかけて10月からNASAの訓練に合流するそうだ。

 記者会見場に現れた金井さんの第一印象は「背が高い!」そして「メガネ君だ」。野口飛行士は背も高いが恰幅もよい(!?)ので「大きい」という感じだが、金井さんはスレンダーで背の高さが際だつ。そして会見時からメガネをかけている宇宙飛行士は初めて。裸眼視力の条件はなく、矯正視力が1.0以上あればよいから当然なのだが「宇宙飛行士は目が良くないと!」と思いこんでいる一般人には新鮮である。

 金井さんは海上自衛隊のお医者さんである。専門は消化器外科。海上自衛隊のダイバーたちの健康管理をする中で潜水医学を学び、気圧の違うところでの生理的変化という点で宇宙医学との共通点を発見した。さらに、アメリカに1年間潜水医学の勉強に行き、潜水医学のドクターがNASA宇宙飛行士になっている事実を知り、宇宙飛行士を目標として意識するようになったそうだ。確かに宇宙飛行士は海底の閉鎖空間で訓練を行う。海と宇宙は意外に共通点が多いのだ。

 宇宙飛行士と言えば、子供の頃から星やロケットが好きで、というように「夢」とセットで語られることが多かった。ところが金井さんは仕事上の興味から宇宙に向かった。しかも「手術中は、助手や看護士とコミュニケーションをとりながら、想定外の出血などのトラブルにも冷静に対処していくリーダーシップが求められる。また手術中は部位だけに集中せず、時間や助手たちの疲労度など全体の状況を把握していく。そういう点が自分は宇宙飛行士に向いている」と極めて冷静に自己分析をしている。仕事の延長線上の興味から入り、宇宙飛行士に求められる適性を理解して、現実的な仕事として選ぶ。その点が新しいと感じた。

 外見は極めて冷静で、謙虚。ただし補欠になってからも先に選ばれた二人に負けないように英語や体力トレーニングを続けていた根性の持ち主だ。高校時代は弓道、大学は合気道をやっていた。そう言えば、袴が似合いそう。

 日本は国際宇宙ステーションに、今年末の野口飛行士を入れて2015年までに5回の長期滞在枠がある。1回ごとにバックアップ飛行士も必要だと考えると約10名分。現在、現役飛行士は5名。候補者が3名。もし国際宇宙ステーションの運用が2020年までのびれば、さらに宇宙飛行士が必要になる可能性が出てくるとか。あなたにも、これからチャンスがあるかもしれません。