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2009年11月分 vol.1
向井万起男さん絶賛 漫画「宇宙兄弟」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


11月2日に日本科学未来館で行われた対談。右が向井万起男さん。左が小山宙哉さん。背景に「宇宙兄弟」に出てくる茄子田理事長  宇宙を目指す兄弟、六太と日々人の挑戦をNASAやJAXAへの取材を元にリアルに、楽しく、時にシリアスに描き超人気の漫画「宇宙兄弟」(モーニングで連載中)。人間味溢れるユニークなキャラが人気の理由の一つだが、中でも気になるのがJAXA茄子田(なすだ)理事長。おかっぱヘアーにひげ。そう、宇宙飛行士向井千秋さんの夫で医師、作家でもある向井万起男さんにそっくりなのである。11月2日に「宇宙兄弟」作者の小山宙哉さんと向井万起男氏の対談が都内で行われ、その理由が明らかになった!

コトの発端
今から約2年前。向井氏の「君について行こう」を読んだ小山さんと編集者が、取材のために向井氏の元を訪れた。「宇宙飛行士は優秀でパーフェクトなヒーローばかりでキャラを考えにくい」と悩んでいた小山さんは、嫌な奴もいるからどんどん描いちゃえばと言われて、気が楽になったという。漫画がスタートし、小山さんは向井氏を茄子田理事長として登場させるが、最初は「ばれないように・・」と(つまり無断で?!)あまり似せずに描いたとか。だが、「どうせなら女にも金にも汚いとんでもない人に描いてくれてもいいよ」と向井氏に背中をおされ、今は写真を見ながらそっくりに。注目はネクタイの柄。野球好きの向井氏らしく野球ボールが描かれている(一度だけネクタイ柄に「にんにく」が登場。向井氏が毎日健康のために食べているのを聞きつけて)。今では向井氏の元に「宇宙兄弟読んでます」と続々反響が届いているという。

制作
毎週の連載はアシスタントと4〜5日で描きあげる。年代設定は2025年で少し先の現実的な宇宙開発がベースとなっているため、JAXAの専門家を訪ねたり、NASAまで打ち上げを見に行ったりと本格的取材がベースに。たとえば、つくば宇宙センターの見学コースに担当編集者と参加した小山さん。見学者は二人しかいないのに、「皆さん・・」と説明するガイドの女性の生真面目さや、月の取材の帰りに担当者が、月の砂で宇宙飛行士が花粉症のような症状に苦しんでね〜ともらした話を面白がり、漫画にいかす。宇宙ど真ん中でなく、ちょっとひいた目線が抜群に面白い。「理系人間には当たり前で見逃しがちなことを伝えている」と向井さんも絶賛する。

表現のこだわり
向井氏は今年、「謎の1セント硬貨 真実は細部に宿る」を出版し、講談社エッセイ賞を受賞している。千秋さんとのアメリカ旅行で疑問に思ったことを、アメリカ人にメールで質問し解明していく過程が綴られていて、ぐいぐい引き込まれる。向井氏は執筆時に気をつけていることが3つあるという。「1.誰でも読めること 2.リズム 3.曖昧さを残さないこと」。だから彼とか彼女という曖昧な表現は避け、固有名詞を必ず使い正確に伝える。小山さんは取材するほど宇宙開発の厳しい現実を知らされるが、そんな技術者を納得させつつ、漫画としても面白いものに、というバランスが難しいという。向井さんは「基礎的な理論がしっかりしていれば、かなり先に行っても大丈夫。どれだけリアリティとちょっと先のイマジネーションがあるかが勝負」とエールを送る。

今後は海外? 映像化?
「宇宙兄弟」には宇宙飛行士選抜で落ちたものの民間ロケットを作る技術者が登場している。彼に日本から有人ロケットを打ち上げさせたいと小山さんは考えているようだ。一方、漫画は「あしたのジョー」しか読まないと言う向井氏だが、「アメリカやヨーロッパに日本のような漫画のジャンルはないし、宇宙ものは堅い内容の本しかない。海外にも『宇宙兄弟』は評価されるのでは」と海外進出を促す場面も。会場からは映像化の場合の配役は誰になるのか、という質問が出た(読者アンケートで断トツはもじゃもじゃ頭の六太役に大泉洋さん。やっぱり!)。果たして茄子田理事長は誰が? 向井氏は「ノーコメント」。今後の展開がますます気になるのであった。