コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.15
明るさを変える不思議な星
 夜空に輝く星座を形作っている恒星も、すべて同じというわけではない。眺めてみれば、すぐにわかるように、赤い星から青白い星まで様々な色の違いがある。詳しく見ると、接近してふたつの星がくっつきあっているようなものもある。中には、ふたつではなく、いくつもの恒星がお互いの周りを回りあっているようなものさえある。恒星も変わり種に満ちている。

参考:2007年2月中旬午後8時頃、くじら座付近(東京)  明るさを変える恒星もある。ちなみに太陽の明るさはほぼ一定なので、地球は安定して暖かいままでいられる。そう思えば、明るさをほとんど変えない太陽というのは実にありがたい存在である。明るさを変える星は「変光星」と呼ばれている。変光星にも様々な種類があって、これまたバラェティに富んでいる。一定の周期で変光するものもあれば、微妙に周期がずれていくもの、あるいは周期が全く不規則で予測がつかないものさえある。周期が決まっているものでも、数時間という短いものから数年、時には数十年という長いものまで、実に様々である。変光星は、一般に暗いものが多く、肉眼で見えるものは少ない。変光する幅、つまり暗いときと明るいときの差が小さいと、天体観測装置を使わないと変光していることさえわからないことも多い。

 そんな中にあって、肉眼でもはっきりと、その明滅がわかる変光星はいくつかある。その代表が、くじら座の中央部にあるミラだろう。なにしろ、最も明るいときで2等星となり、東京の夜空でも、肉眼でもはっきり分かるほどになる。しかし、極大を迎えると次第に暗くなり始め、やがて数ヶ月もすると、肉眼で見るのが困難なほどになってしまう。星座の形が結べなくなるほど暗くなるのである。最も暗い時には、その光度は10等ほどなので、望遠鏡を使わないと見ることができない。332日という長い周期を持つミラは、16世紀に、周期的な変光が認識された最初の周期的な変光星といえるだろう。

 名前は「不思議なもの」という意味のラテン語からのものである。いまでは、おおよそ数カ月から十数カ月の周期を持つ同じような変光星がたくさん発見されていて、まとめて「ミラ型長周期変光星」と呼ばれている。イエス・キリストが生まれた時に、東方の三人の博士をイエスのもとへ導いたというベツレヘムの星の正体は、惑星の集合ではないか、あるいは超新星ではないか、彗星ではないかという諸説あるのだが、極大時のミラだったのではないか、という説もあるほどだ。

 このタイプの変光星は、脈動型に分類される。年老いた星は、一時的に不安定となって、星そのもののが膨張したり、収縮したりを繰り返すようになる。この状態を脈動と呼ぶのだが、その星の大きさの変化によって明るさが変化するわけである。大きく膨張すると、表面温度は低くなって全体として光度は下がって暗くなり、小さく収縮したときには明るくなる。このあたりも詳しい理由は述べないが、日常的な感覚とはちょっと異なるかもしれない。

 そんな不思議な星、ミラがいまちょうど明るくなっていて、現在、夕方の西空で肉眼で見ることができる。昨年にはまだ双眼鏡や望遠鏡がないと見えないほど暗かったが、12月末から明るさが急上昇し、今年初めには肉眼で見えるようになった。2月14日のバレンタインデーが極大予想日で、その前後には 2等星に達し、しばらくはかなり明るくみえるはずである。ちなみに、前回は3等星にしかならなかったので、かなり明るい極大といえる。ミラを見つけることができたら、しばらく何日かおきに眺めてみるといいだろう。まわりの星々と明るさを比べてみると、次第にミラが暗くなっていくのがわかるはずだ。写真撮影ができる人なら、くじら座の写真を撮っていくと、暗くなっていく様子がわかるかもしれない。ただ、春になるとミラは西空に沈んでいき、見えなくなってしまう。秋になって明け方の東の空に、くじら座が見えてくる頃には、ミラは肉眼で見えないほど暗いはずである。星座の形がかわってしまうほど明るさを変える星を是非眺めてみよう。