コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.27
天のうさぎ
 月にウサギがいる、という話はよく耳にするだろう。確かに、満月の模様をじっと見ているうちに、黒く見える海の部分が餅をつくウサギに見えてくるから不思議である。ところで、星座の方にもウサギがいるのをご存じだろうか。

参考:2008年2月中旬午後8時頃の 南の空、
オリオン座の下にうさぎ座が見える(東京)  うさぎ座。真冬の空にはオリオン座を始めとして明るい星を持つ派手な星座が多いが、そんな中で忘れ去られがちな小さな星座のひとつである。あまり有名ではないのだが、とはいえ、うさぎ座は、2世紀頃にプトレマイオスが定めた48星座に含まれている由緒ある星座である。

 場所はといえば、あのきらびやかなオリオン座の足下である。確かにオリオンに目を奪われてしまうので、目立ちにくいのだが、よく見るとなかなかどうしてりっぱである。3等星が4つ、4等星が6つあるが、これらの星々をつなげていくと、ふたつの耳をたてたうさぎの形を想像することができる。そういう意味では、比較的、わかりやすい星座といえるだろう。

 うさぎ座は、オリオン座に踏みつけられている位置にある。狩人であるオリオンは、うさぎを好んで狩りをしていたため、この場所の星座にされたらしい。オリオンの猟犬であるおおいぬ座が東から、うさぎを追いかけているようにも見える。神話らしい神話は伝わっていない星座である。

 この星座で特に面白いのは、全天で一、二を争うほどの”真っ赤な”星の存在である。うさぎ座R星と呼ばれる星で、その色からクリムゾン・スターとも呼ばれている。クリムゾンというのは真っ赤な、あるいは深紅の絵の具にちなんだものである。

 19世紀にイギリスの天文学者ハインドが発見した明るさを変える変光星の一種である。約1年2ヶ月で6等星から11等星の間で変光する、いわゆるミラ型変光星(詳しくは、第15回「明るさを変える不思議な星」を参照のこと。)である。発見したハインドは、この星の赤さを「暗黒の中に滴り落ちた一滴の血」と喩えた。この星は、天文学的には炭素星という特殊な星であることがわかっている。炭素を通常よりも多く含んだ星で、そのために通常の星よりも赤く輝いている。

 炭素星では、もっとも暗くなった時が一番赤く見える。今年は極大予想が7月頃なので、いまはちょうど暗い時期で、かなりの赤さが期待できるのだが、いずれにしろ、肉眼では見えないのは残念である。この星を眺めるためには双眼鏡か、望遠鏡が必要となる。空が透明な、この季節なら、うまく望遠鏡を向けられれば赤い色を楽しむことができるかもしれない。

 うさぎの赤い目の場所にあれば、話は完璧なのだが、残念ながら、この星はうさぎの目の位置にはない。ただ、赤い目のうさぎを思い起こさせる星であるのは確かである。うさぎ座はオリオン座が南の空高く上がっている宵のうちに、その足下を探すとすぐに見つかる。