コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.43
暁の空の天体ショーを眺めよう

 6月21日が夏至。夜明けもずいぶんと早くなった。〆切が迫った原稿などがあると、ずるずると深夜をすぎてしまうことがあるのだが、気づくと東の空が白み始めていることもしばしばだ。そんな時には、せっかくなので東の暁の空に輝く星を拝んで寝ることにしている。もちろん、皆さんもご存じ、明けの明星・金星である。金星は、今年3月はじめまでは夕方の西の空に輝く宵の明星であったが、3月末には内合、つまり地球を追い抜いて以後、明け方の空に移ってきている。そして、次第に東の地平線で光度を上げていき、輝きも増していった。なにしろ、月と太陽を除けば夜空でもっとも明るい惑星なので、よく目立つ。6月6日には、太陽の西にもっとも離れる、西方最大離角を迎え、ゆっくりと高度を下げつつあるところだ。

2009年6月20日の明け方の東の空で起きる月、金星、火星の接近の様子(東京)(提供:ステラナビゲータ/株式会社アストロアーツ)  6月中旬から下旬にかけて、この明けの明星を主役として、様々な天体が近づいては、去っていく天体ショーが繰り広げられる。

 その一つは、もうひとつの内惑星である水星だ。6月中旬から下旬にかけて、明け方の地平線近くに顔を出してきて、6月13日には西方最大離角となる。ただ、日出30分前になっても、その地平線からの高度は7度しかない。金星に近づくほどでもないので、見つけるのはやや難しいかもしれない。低空まで透明度がよければ、金星を起点に、かなり左斜め下あたりに水星の姿を探してみたい。

 もうひとつが火星である。東の地平線から上ってきた火星は、来年の地球との接近に向けて、ゆっくりと高度を上げていくが、その途中、6月21日には金星にもっとも接近する。この前後1~2週間は、金星のきらめきと、金星に比べれば控えめに赤く輝く火星が並んでいるのを眺めることができる


 さて、この金星・火星のペアに近づいて彩りを添えるのが、新月に近づいて、細くなった月である。20日には、火星にもっとも接近して、金星火星月の順番で並ぶ。月齢26なので、かなり細い逆三日月の形をしている。オレンジ色に染まりつつある暁の空に浮かぶ、細い月と、黄金色の金星、赤い火星のトリオ。それは美しい星景色になるだろう。

 翌21日には、月は月齢28となり、さらに細くなって、今度は水星へと近づく。このとき、その月のそばをじっくりと眺めてほしい。月のやや上の方にかすかに星たちが輝いているのが見えるはずだ。これは冬の星座・おうし座にある散開星団すばる(プレアデス星団)である。すばるの星たちは、惑星に比べるとちょっと暗めなので、双眼鏡で眺めてみるとよいだろう。

 まだ夏至というのに、もう明け方の東の空に冬の星座が顔を出し始めているのも、皆さんには驚きかもしれない。私などは、夏の夜間観測が終わり、撤収して帰ろうとする頃に、東から上ってくるすばるを初めて眺めることを「初すばる」と呼んでいる。天文学者特有の季節感を示す言葉かもしれない。

 こうした明け方の天体ショー、眺められるかどうかは、天候次第である。なにしろ、梅雨の真っ最中で、晴れる確率は低い。しかし、雨が降っているせいで、空気中の塵が洗い流されていて、清涼になっているはずだ。うまく梅雨の晴れ間に恵まれれば、思いがけず透明度のよい空に恵まれることがある。そんな時には、条件さえあえば、低空までよく見えることもある。そんな幸運に恵まれた ら、明け方に集う火星、金星、水星、月、そしてすばるの天体ショーを眺めてみてほしい。

 また、残念ながら、曇ってしまったら、雲の上の星の世界を、ぜひ本で楽しんでみたい。世界天文年2009日本委員会では、現在、全国400を越える書店で、「星空ブックフェア」を展開中だ。7月には、店舗も倍増する予定である。そこに並んでいる本は、世界天文年2009日本委員会が選定した良書ばかり。安心して手にとってほしい。特に、5月末に出版された拙著「夜空からはじまる天文学入門 ー素朴な疑問で開く宇宙の扉ー」(化学同人、DOJIN選書25)は、そんな雨の日に読むのには最適な内容である。今までこの「星空の散歩道」で連載した記事の中から厳選したいくつかも加筆して掲載している。ぜひ手にとって見てほしい。

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