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惑星の一つとして残すべきだった。 土井隆雄 (どいたかお)

 冥王星の定義を巡る議論について、怒っている人も多いと思いますが、私もその一人です。「冥王星は惑星の一つ」であると思います。大きな天体が見つかっても、冥王星が今まで20世紀の人類に与えてきた文化的・教育的影響を考えれば、惑星に残しておくべきだった。他の大きな天体が発見されても、そのグループの代表として冥王星は惑星のままでいいんじゃないかと思うんですね。

画像:土井飛行士  私自身、冥王星が惑星でなくなるという結果を聞いて、悲しかったんです。確かに冥王星は惑星としては小さすぎる。でも小さい頃から水金地火木土天海冥と言われて育ってきて、すごく馴染んでいた。自分達の生活には直接関係ないけれども、惑星が文化や文明の一つとして、自分の中に大きく入りこんでいた。天文学とか定義の対象という以上にね。それなのに理屈をつけて惑星から落とされたことに対して、すごく反感を覚えたんです。

 一番問題だと思うのは、今回のIAU(国際天文学連合)の総会に出席した人たちの中だけで、惑星の定義が決められてしまったことです。IAUに属している他の人たちの声も入っていないし、世界中の人たちの声も入っていない。天文学者だけで決める問題ではまったくないと思います。

 冥王星を惑星に残して惑星を12個にするという案もありましたが、あの案では冥王星の衛星カロンとか、小惑星のセレスも惑星になってしまう。セレスは一番大きな小惑星として親しまれてきたわけで、科学的な定義から惑星にしようとすると、これもまた文化的・教育的影響に反します。そもそも惑星の定義自体が一週間ぐらいの間に変わって、惑星の数が12個になったかと思うと、冥王星が惑星から落ちたりしたのもおかしいですよね。ちょっと早まりすぎた議論だったのではないでしょうか。

 あんなふうに議論が決まらないときは、もう少し議論が深まるのを待ったほうがいい。現時点では今までの惑星のままにしておいて、次のIAU総会に向けて、世界中の人の意見を聞くなど、もう少し時間をかけてみなが納得する形の議論がほしかったですね。

 ただ、新しい観測法の発達によって私達が考えていた太陽系が大きく変わろうとしている、新しい発見が行われつつあるということにみなの注目を集めるには、今回の冥王星の話題は役に立ったかと思います。海王星の外側の軌道には天体がたくさんあって、中には地球ぐらいの大きなものもあるかもしれないと言われています。

 ぼくも、いつか自分でそんな天体を観測したいと思っているんです。日本のアマチュア天文家は小惑星をたくさん発見しています。でも小惑星はほとんど発見しつくされてしまった。そこで今度は海王星の向こうの天体を探そうかと。口径40センチか50センチクラスの望遠鏡があれば見つけられると思います。今回、惑星にしようという議論のあった天体(2003UB313)を日本のアマチュア天文家も撮影していますし、十分可能だと思います。今は、次の宇宙飛行のための訓練で忙しいですが、宇宙飛行が終わったら、ぜひ太陽系のかなたの天体を、自分で発見してみたいですね。