エレベーター・エスカレーター

INTERVIEW ミッション遂行の軌跡 INTERVIEW ミッション遂行の軌跡

使えない日をゼロにしたエレベーターのリニューアル。三菱電機の新たなる挑戦。 使えない日をゼロにしたエレベーターのリニューアル。三菱電機の新たなる挑戦。

私たちの毎日に欠かせない
社会インフラのひとつであるエレベーター。
だからこそリニューアル工事での
「使えない日(停止期間)を少なくする」を
三菱電機は、つねに追い続けてきた。

すでにエレモーション・プラスの基本仕様で
連続休止約一週間という短工期を実現していたものの、
技術者たちが目指したのは、さらなる高み。
それが「使えない日を少なくする」から
「使えない日をゼロにする」という
リニューアルの新たなる挑戦だった。

今までどのメーカーも成し得なかったミッションは、
いかにして遂行されたのか。
そんな、エレモーション・プラス[ゼロ]の開発秘話に迫る。

  • 01ビルオーナーの切実なる想い

    あらゆる機械と同じようにエレベーターにも寿命がある。定期的なメンテナンスをしていても、設置から20年を過ぎるとリニューアルが求められ、その際には数日間にわたり運行を止めての工事が発生するのだ。

    現在、国内に設置されているエレベーターは約72万台といわれている。そのうち設置から25年が経過した当社製エレべーターは約5万台。2020年度には約9万台になると見込まれている。多くのエレベーターがリニューアルの時期を迎えるなかでビルやマンションのオーナーを悩ませているのは「リニューアルはしたいけれど、エレベーターを使えなくなるのは困る」ということ。

    そんなビルオーナーの悩みを解消するために立ち上がったプロジェクトが「エレベーターが使えない日をゼロにする」という、かつてないリニューアルの実現。それが、1990~1997年ごろにかけて約25000台製造し、まさに今リニューアルの時期を迎えている三菱エレべーター「GRANDEE(グランディ)」を対象としたエレモーション・プラス[ゼロ]だ。

    ビルオーナー様からの
    ご要望に応えるために

    三菱電機(株)開発部
    応用システム開発課

    奥田 清治

    使えない日をゼロにするということは、すなわち「作業をしていない時間帯はエレべーターを利用することができる」ということ。たとえば、マンションでは通勤や通学などの利用者が多い朝晩の時間帯、飲食テナントビルでは夕方・夜の営業時間帯にエレべーターの利用を可能とするようなスケジュールを組み、利用者の不便を大幅に軽減する。また、病院などエレべーターの連続休止期間を設けるのが難しい施設では、利用者の少ない曜日に分散して工事を組むことも可能だ。

    今回のプロジェクトの生い立ちについて、全体の取りまとめ役を担った応用システム開発課の奥田が口を開いた。

    「5年ほど前から『エレベーターを止めずにリニューアル工事をできないか』という話は、担当営業から開発部門に投げかけられていました。それほどリニューアルにともなうエレベーターの停止は、ビルオーナー様にとって切実な問題だったんです。複数のエレベーターがある建物であれば順番に工事を行うことで動線を保てますが、一台しかない建物の場合は動線を止めることになってしまいますからね。リニューアルを提案するとマンション管理組合等からの抵抗も大きかったと聞いています」。

    Elemotion+[ZERO]エレモーション・プラス[ゼロ]

    新旧双方の制御を実現した「ハイブリッド制御盤」

    新旧の巻上機や操作盤を制御できる「ハイブリッド制御盤」により、新旧の機器が混在する工事期間中でも作業をしていない時間帯はエレベーターを利用することが可能に。これまで避けることができなかった連続休止をゼロにした、まったく新しいエレベーターリニューアルを実現。

  • 02ソフト解析に半年以上を要して

    作業後の安全点検も
    毎日の必須条件でした

    三菱電機
    ビルテクノサービス(株)
    昇降機保守事業本部
    モダニゼーション生産統括部

    田中 麦平

    具体的にプロジェクトが動き始めたのは2014年。最初に取り組んだのは、三菱電機が築き上げてきた既存の工法を組み替えることだった。現場における据付手順の開発に携わった三菱電機ビルテクノサービス昇降機保守事業本部の田中は、その苦労をこう振り返る。

    「工法で最も苦慮したのは、今まで数日にわたり連続停止して工事をしていたものを、一日一日工事が終わるたびにエレベーターを使える状態に戻さなければならないということ。つまり、1日ごとに作業を完結しなければならないのです。そのために、エレベーターの取替手順を分解して、ジグソーパズルのように組み替える必要がありました」。

    さらに、こう続ける。

    「たとえば、交換する機器が1から10まであるとします。連続して5日間止めても、1日ごとに作業を完結しても、すべてを交換し終えた最終形は同じです。しかし、それらを1から順番に変えていくだけでは、毎日使える状態にすることができません。そこで、1日目は既存の機器を利用しながら1と9の機器を交換、2日目は2と7の機器を交換というように、新旧の機器を併用しながらの工事が求められました。そして、三菱のエレベーターとして安全に使っていただける状態が保たれているかの点検も毎日欠かすことができせん。そうでなければ、お客様へ『安心してお乗りください』とは言えませんからね」。

    田中の言う「新旧の機器を併用しながらの工事と安全に使っていただける状態の確保」。これを実現したのが、既設の機器と新しい機器を同時に制御できる「ハイブリッド制御盤」だ。主にソフトウェア面の開発を担当した管理システム開発課の町田に、開発の裏側を聞いた。

    「新しい制御盤を使って既設のエレベーターを制御するには、当時のグランディという機種がどういうものであるかを知る必要がありました。当時の資料で大まかな仕様についてはわかっているものの、グランディには膨大な数のオプション仕様があります。新しい制御盤でそれらを動かすには、すべてのオプション仕様のソフトウェアを解析する必要がありました。まさに果てしない作業です。このソフトウェアの解析だけでも半年以上を要したのではないでしょうか」。

  • 03困難を極めた制御盤への実装

    制御盤への実装は、
    さながらパズルのよう

    三菱電機(株)開発部
    ハードウェア開発課

    竹井 亮

    そして、ソフトウェアの開発で最大の課題となったのが通信。当時のシステムと現行のシステムとでは信号のやり取りをする通信方式が異なるため、双方をつなぐ通信変換ソフトウェアの開発が求められた。しかし、この通信変換ソフトウェアがあれば万事解決というわけではない。ハードウェアの開発においても、通信面の障害が最初の課題となったという。

    「通信はノイズに弱いので、それをふまえて実装しなければエラーが出てエレベーターが動きません。使用する通信システムが外的要因にどれだけ弱いかを検討し、実機試験で検証。ダメだったらやり直しという試行錯誤を繰り返しました。万一があってはならないので、ノイズに関しては念入りに設計しています」。

    こう話すのは、ハードウェア開発課の竹井。通信の問題はクリアしたものの、実装面においてはこんな課題が浮上したという。

    「通信変換ソフトウェアを搭載する基板などを、リニューアルで従来から使用している制御盤に実装する作業は、さながらパズルのようでした。特に、制御盤内の部品を動かさずに新たな部品を実装しなければならず、それがより一層作業を難しくさせました」。

    制御盤内の部品を動かしてはならない理由とは──。

    「標準的な位置にある部品を動かすと、保守性に影響が出てしまうからです。ここにあるはずのものがないというのは、保守担当者にとって大きな問題になる。たとえば、遮断器の場所を変えただけでも現場ではパニックになるでしょう。それにともない、メンテナンスマニュアルの変更も発生します。いちばん簡単なのはリニューアルで従来から使用している制御盤はそのままに新たな部品を外付けすることですが、そうするとコストがかさむ。コスト面を考慮しても、制御盤内に実装することがベストだったのです」。

    通信のノイズ対策や工法に応じた実装、さらには保守性の維持という難題を乗り越え、ハイブリッド制御盤はようやく完成に至った。

  • 04後輩たちに伝えていくべきもの

    毎日使える状態に戻しながら工事を進める「1日完結型の工法」と新旧の機器を並行して制御する「ハイブリッド制御盤」により、使えない日をゼロにしたエレモーション・プラス[ゼロ]。奥田はこのリニューアルにおける画期的な新製品開発が、三菱電機にさまざまな収穫をもたらしたという。

    「私はずっとリニューアルに携わっていたにもかかわらず、これまで現場のことはよく知らなかったのかもしれません。今回は竹井さんと何度も工事現場に足を運び、据付について学ばせていただきました。新製品は、機能・性能ばかりでなく、据付やその後の保守までも視野に入れて開発しなければならないと、私のなかで強く思いました。開発側の我々が、より現場に目を向けるきっかけとなった今回のプロジェクトは、リニューアルのみならず新機種の開発においても大きな一歩になったと確信しています」。

    グランディ以外の
    機種にも
    広がっていくもの

    三菱電機(株)開発部
    管理システム開発課

    町田 幸喜

    奥田の言葉に竹井が頷く。

    「エレベーターは20〜30年先を見越して開発しなければいけません。さらに、その先のリニューアルをも考慮した製品開発が必要なのではないかと感じています。これまで新機種の開発においてリニューアルを考慮することは少なかったのですが、その叩き台を我々の世代がつくり、後輩たちに伝えていくべきなのかもしれません」。

    田中は当プロジェクトのこのような一面に胸を張る。

    「今回のプロジェクトは、営業がお客様からの意見を吸い上げて開発に結びつきました。一般的に企業はボリュームゾーンを追いかけ小さいニーズを軽視する傾向にあるなか、必要であれば小さな声にも応えていこうという姿勢が三菱ならではと感じます。今後も現場と開発が一体となった総合力で、皆様にご満足いただけるものを提供し続けることが我々の使命と考えています」。

    ハイブリッド制御盤の心臓部を手がけた町田の視線は、早くも次なる開発に向けられている。

    「過去の製品を紐解いていった今回の開発で、三菱電機の安全や品質に関する思想は昔から洗練されていたことを実感することができました。お客様の希望を叶えたエレモーション・プラス[ゼロ]はグランディ以外の機種にも広がっていくものですし、そのときには今回の知見が必ず役に立つと思っています」。

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