0その5

いまさら聞けない人工知能・その5
「エンパワードエッジって何?」

1 エッジ
コンピューティング
を知ろう

AIが、より実用段階に

みなさん、こんにちは。
さて第0回、これまではみなさんに身近なAIのお話をしてきました。「あったらいいね」からはじまったAI。その開発が格段に進み、機器に容易に搭載できるような「AIのコンパクト化」、機器が自ら短期間で賢くなる「AIの学習効率化」、ビッグデータ(判断の基準となる大量のデータ)の「分析スピードの高速化」などの進化によって、AIがより現実的で、使えるものになってきた、と言ってもいいですね。

今回のその5では、AIの実用化のなかで注目されてきた[エッジコンピューティング]と、それを取り巻く[エンパワードエッジ]についてのお話です。そこには、さまざまな分野からの解決すべき課題や背景がありました。

5Gやリアルタイム処理の必要性

例えば、家ではテレビやゲーム、洗濯機や冷蔵庫、監視カメラにいたるまで、さまざまな機器がネットワークにつながっていますね。このことをIoT(Internet of Things=モノのインターネット)と呼びますが、扱うデータの通信量はどんどん増えていっています。そこで、いよいよ提供が開始されたのが「5G(第5世代移動通信)」。2時間の映画が約3秒でダウンロードできるほどの通信スピードを実現する、遅延の少ない、超高速・大容量通信に期待が集まっています。

それから、そう遠くない未来に向けて開発が進んでいる「自動運転」の技術。画像認識のAIを搭載しながら、自動車が無人でも安全で正しく走れるように、生成される映像データや走行データ、地図や位置情報など、さまざまなデータがリアルタイムで処理・判断されることが必要になっています。

また、ネットワークに接続することによるセキュリティの問題も懸念されるようになりました。ビッグデータをクラウド上に置いておくことで、常に判断の材料にアクセスできるようになる反面、情報が予期しないところに漏れたり、覗かれたり盗まれたりする危険性も心配されるようになっています。

そんな背景の中、近年注目されはじめたのが[エッジコンピューティング]という技術。一体、なんのことでしょうか?

エッジコンピューティングを知ろう

さまざまな機器や端末がネットワークにつながるIoTでは、機器や端末とクラウド上のデータとの間を膨大な量の情報が行き来しています。これは[クラウドコンピューティング]と呼ばれていますが、現在のクラウドコンピューティングのままでは、データがあふれてしまい、通信速度の遅延が心配されています。そこで、クラウドに集約されていたデータ処理を、各自の端末側(=エッジ)で処理し、負荷を分散する[エッジコンピューティング]という手法が注目されています。

エッジコンピューティングでは、すべてのデータをクラウドに送って処理するのではなく、各端末でできることは各端末で処理します。それにより負荷が分散され、より高速にデータ処理が行える手法です。各端末で処理することにより、ネットワークの通信量をおさえて、通信の遅延が軽減される、というわけですね。

日本でも5Gが実用化されましたが、エッジコンピューティングは「超低遅延」「超高速」「多数接続」の次世代通信の力を借りて、より強固なネットワーク通信環境によりその特長を大いに発揮するでしょう。これが[エンパワードエッジ]と呼ばれているシステムです。

CHECK!

エッジコンピューティングは、機器や端末(エッジ)自身でデータをできるだけ処理し、負荷を分散している手法のこと。

2 エンパワードエッジ
って?

5G×エッジAIで変わること

さて、おさらいをすると、データの処理をクラウド側で行うのではなく、できるだけ端末側(=エッジ)で行おうという仕組みを[エッジコンピューティング]と呼び、[エッジコンピューティング]の拡大と5Gがもたらす強固なネットワーク通信環境をあわせて[エンパワードエッジ]と呼ぶことがわかりましたね。
ではなぜ、エッジで処理ができるようになるのでしょうか?そこには[エッジAI]が活躍しています。

[エッジAI]とは、エッジ(=edge、端)に搭載されているAIのことです。そもそもこれまでAIは、そのほとんどがクラウドによって提供されていました。
しかし、例えば先ほどの自動運転を想像してみてください。自動車に搭載されたAIが、走行のためにセンサーなどで捉えた情報を、ネットワークを介してデータとしてクラウドに送り、AIが処理してその結果を再び自動車側に戻すとなると、その過程でタイムラグが発生することになります。自動車では大変危険ですね。それが非常に多くの台数を同時に接続となると、膨大なデータ量のやり取りで、ネットワークも大混乱になるわけです。このわずかな通信遅延と、ネットワークの圧迫を、エッジAIが自分で考えて処理することで解消しようとしているんですね。

工場でも役立つエッジAI

また、エッジAIは製造業、例えば工場などでも導入がはじめられています。
生産ラインを走らせたまま、リアルタイムにエッジAIが状況を判断し現場にフィードバックし、生産性を向上させようという目的ですね。

例えば、生産現場データを収集・活用し、エラーを未然に防いだり、エッジAIを搭載したロボットが人とリアルタイムに協働して生産性を高めたり、急な注文が来た場合にも現場でフレキシブルな調整を行なって、生産性をキープしたりしながら、ものづくりを最適化しているのです。
これもエッジAIのわかりやすい例と言えますね。

期待されるエンパワードエッジ

今後、専用AIチップや高度な処理能力を持つプロセッサ、ストレージなどの機能が、幅広いエッジ機器に追加されると予想されています。5Gの登場による[エンパワードエッジ]は、より速く、便利で安全に、よりローカルに私たちの生活を大きく変える仕組みであるとも言えますね。

これからもさまざまな分野で、より実用的に身近になるAIの技術。三菱電機のAI「Maisart®(マイサート)※1」も、このエッジAIとして活躍すべく日々進化しています。あなたの周りでも、見かけるようになるかもしれませんね。

※1 「Maisart」は三菱電機株式会社の登録商標です。

CHECK!

「超低遅延」「超高速」「多数接続」の通信、5GとエッジAIのかけあわせがエンパワードエッジの力。