• DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

読む宇宙旅行

2010年6月 vol.1

進化する日本の超小型衛星「教育から実用へ」

6月10日に行われた第一回超小型衛星シンポジウムで発表された、衛星開発計画。3号機では3機の衛星で地球観測を行う予定。

6月10日に行われた第一回超小型衛星シンポジウムで発表された、衛星開発計画。3号機では3機の衛星で地球観測を行う予定。

 世界で打ち上げられる人工衛星は数トン級の大型衛星と、500kg以下の小型衛星の二極化が進んでいると言われる。今、アツイのは超小型衛星。日本では1Kg・10cm立方の衛星キューブサットが2003年に打ち上げられてから、全国の大学で衛星作りが活発化。これまでに十数機の大学・高専発手作り衛星が打ち上げられている。

活発化しているのは、日本の大学だけではない。1~100Kgの超小型衛星では、カナダのトロント大学やユタ州立大学、ベルリン工科大学などがベンチャー企業を立ち上げたり、宇宙機関や企業と協力したりして衛星本体や機器を製作、販売、ロケット打ち上げアレンジのサービスなどを行っている。日本の超小型衛星は世界のトップを競っており、海外からの技術協力依頼もある一方で、海外の大学は政府の支援を受けて実用化を目指しているところもあり、力をつけてきている。

 そこで奮起したのが、東京大学の中須賀真一教授。日本で大学発の衛星作りに火をつけた発起人だ。6月10、11日に開かれた第一回超小型衛星シンポジウムで「超小型衛星は『教育目的の』衛星から『役に立つ』衛星に脱皮できる。1機2~数億円、開発期間を1.5年で作り、利用者の敷居を下げて、幅広く宇宙を利用してもらい新しい宇宙開発・利用の世界を作ろう」と熱弁をふるった。実際、東大では衛星作りを手がけた学生たちがベンチャー企業を立ち上げており、現在、気象予報会社の受注を受けて、北極海の氷を観測する衛星を製作中で、今年~来年に打ち上げることになっている。

 2億円という金額は、中須賀教授によれば「企業の広告費や大学の研究費を合わせることなどで出せる金額」だそうだ。これまで製作費が数十億円以上かかり、とても自前の衛星なんて打ち上げられないと思っていた企業や大学の研究室、或いは個人も利用できる。教育やエンターテイメント、さらに個人がお金を出し合えば、パーソナルユースの衛星が実現できる可能性も出てくるというわけだ。クリティカルなミッションはほぼ100%の高い信頼性が求められ今後も大型衛星メーカーが担う領域だが、高い信頼性を求めない、超小型衛星ならではの用途もある。期待されるのは災害観測や資源探査などの地球の観測。エンターテイメントなどの新しい需要も掘り起こす。気になる分解能(地表を見分ける能力)は、2009年に打ち上げられた東京大学のプリズム(重さ8Kg)が約20mで川や道路が見分けられる程度。将来的には5~2mを目的にしている。

 中須賀教授らは内閣府の予算(※)を受け、超小型衛星のための物づくりと利用の体制の構築を開始した。教育目的の衛星なら失敗は許されても、ビジネス目的なら高い信頼性が求められるからだ。物づくりの特徴は「ほどよし信頼性工学」という考え方。小型衛星は小さいから安くなるわけではない。むしろ、小さい衛星にたくさんの機能を詰め込むのは技術的に難しいが、大事なのはコスト・手間・信頼性のバランスを「ほどよく」とること。部品点数やインターフェース、試験を減らして、同じものを継続して使えるように、つまり「手を抜く」ことができるところと手を抜かない部分を見極める、超小型衛星独自の物づくりの理論と作り方を、全国の大学や中小企業と協力して作り上げようというわけだ。

 プロジェクトの母体となる超小型衛星センターでは、4年間で5機の衛星を打ち上げる計画だ。1号機は複数の民間企業がデータ利用できる衛星を2012年にロシア等で打ち上げる予定。さらに、超小型衛星ミッションアイデアコンテストも世界に呼びかけて開催する。エントリー締め切りは2010年12月10日。優勝者には、賞金50万円のほか、打ち上げのチャンスも与えられる可能性があるという。小さな衛星から、大きなうねりが起こりそうだ。