ここから本文

DSPACE

  • DSPACEトップページ
  • DSPACEコンテンツメニュー

ここから本文

読む宇宙旅行

2011年6月 vol.02

宇宙から大震災を観測。「だいち」活用の舞台裏。

 3月11日に起こった東日本大震災。地震発生直後から、陸域観測技術衛星「だいち」を使った緊急観測のため黙々と仕事に取りかかる人たちがいた。JAXAで人工衛星を防災に活用する防災利用システム室のメンバーだ。中心人物の一人、麻生紀子さんに話を伺った。

 麻生さんらは「だいち」が打ち上がった2006年から内閣府や関係省庁、地方自治体の防災関連機関と観測データの防災への活用や災害情報共有などの検討を進め、試験的な利用活動を行ってきた。だが数百年に一度の大地震。その瞬間、戦後初の高層ビルにある防災利用システム室は大きく揺れた。テレビで東北地方沿岸全域にわたって津波警報の赤いラインが出ているのを見たときには「本当だろうか」と信じがたい気持ちだったという。

岩手県陸前高田市油崎付近。湾(画像左側)に押し寄せた大量の漂流物や、平野部の冠水(青〜緑)の様子がわかる。

岩手県陸前高田市油崎付近。湾(画像左側)に押し寄せた大量の漂流物や、平野部の冠水(青〜緑)の様子がわかる。

宮城県名取市付近。3月19日には減少しつつあるものの広範囲に冠水している。同じ場所をくり返し観測できるのが観測衛星の強み。

宮城県名取市付近。3月19日には減少しつつあるものの広範囲に冠水している。同じ場所をくり返し観測できるのが観測衛星の強み。

 しかし災害発生時の行動手順はできており動きは早かった。まず「だいち」の緊急観測。「だいち」が日本上空付近を通るのは朝と夜の2回。翌12日朝、観測できることを確認するが、大災害時は一つの衛星の観測では限界がある。世界の観測衛星が協力する体制(国際災害チャータ、センチネルアジア)が構築されており、さっそく観測依頼の手続きに入る。そして被災状況の確認に必要なのが震災前の画像。震災前の観測画像に地理情報を載せた「だいち防災マップ」を出力、交通機関がマヒしていた夜中、霞が関の防災関係省庁に自転車で約70枚届けたそう。

海上の漂流物。10m以上の漂流物66個を検出。3月13日22時11分ごろPALSARで観測。

海上の漂流物。10m以上の漂流物66個を検出。3月13日22時11分ごろPALSARで観測。

 12日からの観測では「とにかく撮れる限り撮る」。まず広域を観測し全体の状況を把握。土砂災害がそれほどひどくないとわかると、津波被害に見舞われた沿岸部を中心に観測した。そのうち各省庁から「ここの画像を」「こんな情報が得られないか」とリクエストが届き「修羅場になった」という。例えば、国土交通省や農林水産省からは津波被害地域の堪水状況、つまり水がどれだけ溜まっているかの情報が欲しいという要求がきた。溜まっている水の排水にどれだけポンプが必要か、どこを優先すべきか等の判断材料の一つとするためだ。光学センサー「AVNIR-2」と天候にかかわらず観測可能なレーダ「PALSAR」で観測。画像から堪水量を詳細に算出していった。

この作業が担当者泣かせだった。「解析チームはまず画像から自動処理で水の量を抽出しようとしました。でも過去の画像と正確に条件を合わせるなどの前処理、後処理が必要で、結局画像を見ながら目視判読しました。本当に細かい作業で大変だったと思います」(麻生さん)。また海上保安庁や水産庁からは、沖合に流された船や漂流物を確認したいという要望があった。AVNIR-2で観測し、陸前高田周辺だけでも約56万m2の漂着物を確認した。

「だいち」がとらえた地殻変動。縞が密になるほど地殻のずれが大きいことを表す。これほど広い範囲にわたり地殻変動が観測されるのも珍しい。

「だいち」がとらえた地殻変動。縞が密になるほど地殻のずれが大きいことを表す。これほど広い範囲にわたり地殻変動が観測されるのも珍しい。

 そして「だいち」が得意とするのが地殻変動の検出。地面−衛星間の距離を測り地震の前後で比べることで1〜2pの地殻のズレもわかる。世界一の精度だ。今回は牡鹿半島先端で4m近い地殻変動があったことがわかり、国土地理院は「だいち」データと電子基準点の解析から最大3.5m以上の地殻変動と発表。これは観測史上最大規模の変動だ。沿岸部も津波で削り取られていることから、地図を作りなおす必要があるほどだという。

ところで、報道では福島第一原子力発電所の画像に米商業衛星の撮影したものが使われていた。実は「だいち」にも観測依頼があり撮影、省庁に提供している。ただし「だいち」の解像度はAVNIR-2で10m、PRISM(可視光の立体視センサー)で2.5m。一方、商業衛星は1m以下まで見分けられる。「だいち」は広域を観測できる強みはあるが、高分解能観測は課題であり後継機に引き継がれている。

「だいち」は災害観測で大活躍したが、電源系機器の異常で4月22日に機能停止。3月12日〜4月12日まで400シーンを超える画像を取得した。「今後、復旧、復興の状況を『だいち』で把握したいという要望が多く寄せられていただけに残念」と麻生さんは言う。

後継機は2機に分けられ現在開発中だ。レーダ観測機を搭載した「ALOS-2」は2013年度に、80cmの高分解能をもちつつ50kmの広い観測幅を実現する光学センサー搭載の「ALOS-3」は2015年に打ち上げることを目指している。「東日本大震災では過去の準備が活かされ、宇宙からの観測が有効に使えることがわかりました。同時に現場でもっと使ってもらうには、データを使う側とのキャッチボールをしてニーズを知ることが大切だと実感しました」。麻生さんはさっそく、「だいち」画像が現場でどう活かされたかヒアリングに回り、キャッチボールを始めている。